ダ・ヴィンチ戦慄のデビュー作『受胎告知』

ずっと知覚の話になっていましたので、今回は、久しぶりに ダ・ヴィンチ の絵画に触れましょう。 そもそも ダ・ヴィンチ の絵画を含めて宗教絵画は、知覚力を鍛えるのは理想的なのです。その辺のお話は、いつかまたゆっくりしたいと思います。 さて、現存するダ・ヴィンチ作品の中で、最も古い絵画が『受胎告知』です。 『イエスの洗礼』や『大天使ラファエロとトビアス』もありますが、ダ・ヴィンチはそれらの制作に部分的にしか関わっていません。 『受胎告知』の方は、ほとんどの部分以上をダ・ヴィンチが制作した可能性が高いです。 何が私たちをときめかせるかと言えば、20代のダ・ヴィンチが並々ならぬ情熱と、成熟した時にいったいどんな並外れた絵を描くのだろうという期待感です。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『受胎告知』、1472〜1473年頃、98 cm X 217 cm、 ウフィツィ美術館、フィレンツェ、イタリア 作品の概要 内容 「受胎告知」とは、キリスト教絵画の中で最も多く描かれるトピックのひとつです。 新約聖書ルカによる福音書 1:26-39 を絵画化したものです。神の使命を受けた大天使ガブリエルが、ガリラヤの町ナザレの処女マリアを訪れ、ジーザスという名前の息子を受胎したことを知らせるその瞬間です。 大天使ガブリエルは左手に白のユリ(純潔のイコノグラフィー)を持ち、右手は祝福のサイン(人指し指と中指を伸ばし、他の指は閉じる)を示しながら跪いています。その場所である囲まれた庭には、草花が絨毯のように咲き乱れています。囲まれた庭(Hortus conclusus)は、マリアの処女性のシンボルでもあります。 一方、マリアは読書中で、大理石の装飾的な台座がついた聖書台に置かれた聖書のページを押さえながら顔を上げ、この訪問に対して、左手で驚きを表現しています。 家の外には、幾何学的な木々が並び、その向こうには、岡、船が見える港町、遥か彼方には高い山々がかすかに見えます。その港町の風景の中心は、ちょうどこの絵の消失点としての役割を果たしています。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『受胎告知』後景部分、 ウフィツィ美術館、フィレンツェ、イタリア 背景 この『受胎告知』は、1867年にフィレンツェのサン ・ バルトロメオ ・ モンテオリヴェート教会から、ウフィツィ美術館に持ち込まれましたが、それ以上の来歴については詳しく分かっていません。 作者は、ダ・ヴィンチではなく、彼の恩師であるアンドレア・デル・ヴェロッキオ、ロレンツォ・ディ・クレディ、ドメニコ・ギルランダイオと疑問視されることがありました。…

最近のアート市場から目が離せない!

Art Basel 2021が、9月24-26日に開催されました。 毎年6月にスイス北西部バーゼルで行われている世界最大の現代アートフェアですが、COVID-19の影響を受け、昨年はオンラインのみ、今年は3か月遅れでオンサイトの方も開催に踏み切りました。 今回は、250のギャラリーと4000人以上のアーティストの作品が、オンサイトとオンラインで一堂に会しました。 「どんな現代アート作品に自分は魅力を感じるのか?」 「今評価されているのは、どんな作品なのか?」 と考えながら覗いてみると、いつも楽しいサイトです。現在は、12月にマイアミビーチで行われるアート・バーゼルでの出品予定作品が閲覧できます。著作権の関係で、ここには残念ながら作品を掲載できませんが….…。 artbasel.com ところで、アート・バーゼルのスポンサーが、あのスイスに本社がある投資銀行であり、金融サービス会社であるUBS(Union Bank of Switzerland)です。アート・バーゼルの他にも、数々のアートや音楽イベントのスポンサーとして有名です。 UBS本社、チューリッヒ UBSは、個人資産を運用する銀行としては世界第1位です。要するに、アートのスポンサ一としての活動は、富裕層の信頼を得ることに十分意味があるわけです。 UBSは、Arts Economics に委託して毎年アート市場についても緻密な調査をしています。そのデータに注目すると、日本の新聞ではあまり取り扱われないような面白いことが分かります。 特に興味深いところに着目してみましょう。 COVID-19の影響で、2020年の美術品セールスは501憶ドル(日本円に5兆10億円)と22%落ち込んだ。にもかかわらず、オンラインでの美術品セールスは史上最大規模となり、1年で2倍で124憶ドル(日本円にして1兆240億円)となった。 富裕層アートコレクターの66%が、COVID-19によってアートへの関心を一層深めている。 アートに100万ドル(日本円にして1億円)以上支払った世代別割合を見ると、ベビーブーマー世代の富裕者層(1946-1964年頃生まれ)が17%、その一方でミレニアル世代の富裕者層(1981年頃以降生まれ)は30%とより多かった。 世界最大規模のアート市場は、相変わらずアメリカ42%, 中国20%、イギリスが20%がトップ3を占めている。 (c)Arts Economics 2021 Source: The Art…

ドキュメンタリー映画『ロスト・レオナルド』

レオナルド・ダ・ヴィンチあるいは彼と工房による作品、『サルバドール・ムンディ』、1500年頃、45.4cm × 65.6cm、木製パネル(くるみ材)サウジアラビア王太子ムハンマド・ビン・サルマーン所有、所在不明 『サルバドール・ムンディ』の謎に包まれた軌跡  今年6月、米国トライベッカ映画祭にてプレミアム上映されたドキュメンタリ―映画『ロスト ・ レオナルド(失われたレオナルド)』が、8月13日から米国で一般公開されています。 この映画の主役は、レオナルド・ダ・ヴィンチ作かどうかの真贋がわからないまま、所在さえも不明となっている絵画『サルバドール・ムンディ』。その絵の発見から、現在に至るまでの紆余曲折したミステリアスなストーリーを追っています。「ダ・ヴィンチ作だとしたら……」というワクワク感と、本物だった場合の膨大な金銭的価値によって翻弄された一枚の絵画の軌跡とも言えますね。 (映画についてではなく、絵画自体の軌跡の方は、別エントリーに詳しく書きましたのでそちらをご覧ください) https://www.youtube.com/watch?v=j0lXLGgQjYY デンマークの監督による美しいアートフィルム この映画ですが、日本でも公開されたらいいなと期待しております。と言うのも、ものすごく良くできたドキュメンタリーだからです。 デンマーク人の監督アンドレアス・コーフォード(Andreas Koefoed)が、初めて製作したアートフィルムなのですが、信じられないくらい優れた仕事をしています。 まず、色・光・カメラアングルが、非常に美しい! それと、 『サルバドール・ムンディ』 の真贋に直接的に関わった人々――アートディーラー、保存修復士、キュレーター、オークションでのバイヤーとセラー、アートジャーナリスト、ダ・ヴィンチ研究者など――のインタビューが抜けなく集められています。 永遠に残るフィルムですから、これだけの人々にインタビューで「真贋」を証言してもらうには、相当の説得力が必要だったでしょうね。将来、科学的手法で真贋にケリがついた時、専門家である自分が偉そうに反対のことを主張していたら、恥ずかしい気持ちが否めないでしょうから。 インタビューのカメラワークも工夫されていて、人が中央に座って真正面から撮影しています。証言台に立たされているようで、特徴的です。これ、実はコーフォード監督のねらいで、 『サルバドール・ムンディ』 の真正面向きの構図と重ねていたことを後で知りました。 『ロスト・レオナルド』 の監督、アンドレアス・コーフォード © Erika Svensson/Sony Pictures Classics 『サルバドール・ムンディ』は今どこに? 『サルバドール・ムンディ』…

トップアスリートに学ぶ!パフォーマンスのための知覚力

オリンピック真っ最中ですね。 ところで、オリンピックに出場するようなトップアスリートとそれ以外を隔てるものは何でしょうか? 実は、これもまた知覚力なのです! アスリートの3つのステップ アスリートは、知覚したことを、脳で解釈し判断して、正確な身体の動きにする3ステップを何度も繰り返したり、その連続を瞬きをするくらいの速さで完了したりしなければなりません。 そして、各ステップすべてでミスせずに、眼を含む感覚器・脳・身体が効率的に連携した時にこそ、最高の結果を叩き出します。 頂点を極めるためのメンタルトレーニング さて、ここで問題です。 オリンピック選手が4つのグループに分かれて、異なる配分のトレーニングを行いました。 最も良い成績を残したのは、どのグループだったでしょうか? グループ1:100%フィジカルトレーニンググループ2:75%フィジカルトレーニング、25%メンタルトレーニング グループ3:50%フィジカルトレーニング、50%メンタルトレーニンググループ4:100%メンタルトレーニング おそらく、フィジカルとメンタルを配合したグループ2か3と思われた方が多いのではないでしょうか。 ところが正解は、グループ4です。 トップアスリートにとっては、メンタルトレーニングが、フィジカルトレーニングの効果を上回るという驚愕のデータです。 Photo: Business Insider トップアスリートのメンタルトレーニングとは? でも、メンタルトレーニングってどんなものでしょうか。 メンタルトレーニングの中でも優れた効果が認められているのが、「マインドアイで行なうリハーサル」なのです。 具体的には、競技本番でパフォーマンスをする自分を頭の中でリアルにイメージする練習です。 内村選手からマイケル・ジョーダン、タイガー・ウッズまで オリンピック体操個人男子2連覇と世界選手権6連覇いう前人未到の快挙を果たした内村航平選手が、 「競技の最中に、もうひとりの自分が完璧な演技をしているのが観える」 とあるインタビューで語ったことを覚えています。 また、史上最強のゴルファーと言われるジャック・ニクラスは、 「練習の時でも、頭の中に画像を持たずにワンショットすら打ったことはない。」 と著書で述べています。 他にも水泳自由形選手でオリンピックメダル獲得数1位のマイケル・フェルプス、バスケットボール史上最も偉大な選手と公式認定されたマイケル・ジョーダン、マスターズを僅か12ショットで勝利したタイガー・ウッズ、ベースボール史上最もパワフルなバッターのひとりであるテッド・ウィリアム他が、マインドアイでイメージを観ながらトレーニングしていることが知られています。 どんなパフォーマンスにも効く…

レンブラント『夜警』は本当にAIでよみがえったのか?

オランダバロック時代の巨匠レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)による名画『夜警』(1642年作、アムステルダム国立美術館所蔵)が、300年ぶりにAIによって欠損部分が復元されました。 復元されたスキャン画像は、オリジナル絵画とともに3か月間(2021年7月〜)特別公開されます。 『夜警』とは? レンブラント・ファン・レイン、『夜警』、1642、アムステルダム国立美術館、363 cm × 437 cm、油彩、キャンバス(1715年欠損後) 上の画像で物足りない方は、世界で一番解像度が高い『夜警』をご覧ください。 『夜警』と呼ばれていますが、後年のニックネームです。 現在の正式名称は、『フランス・バニング・コック隊長指揮下にある第2市民自警団』(オランダ語: Schutters van wijk II onder leiding van kapitein Frans Banninck Cocq)ですが、元々はもっと長い名称でした。 その名称から推測できるように、主題は、アムステルダムを警備していた市民自警団が出勤する様子です。その隊長が、フランス・バニング・コック(画面中央向かって左の人物)で、副隊長がウィレム・ファン・ライテンブルフ(画面中央向かって右)でした。その自警団は、火縄銃隊でした。 『夜警』というニックネームは、重ねづけらた釉が黒ずみ、夜のシーンと信じられていたことによります。1940年代に劣化していた釉は取り除かれましたが、その名は今日まで継続的に使われています。 『夜警』の革新性 こんな大作を、繊細な技巧、秀逸な構図、ドラマティックな明暗の演出で描いた『夜警』は、レンブラント作品の中で間違いなく最高傑作です。 さらなる革新性と言うと、この絵が市民自警団の「肖像画」である点です。 肖像画で思い出すのは、パターンが決まった固いポーズをした人物ですよね。ところが、この絵画では、それぞれの人物がそれぞれのアクションの中で、生き生きとしたポーズと表情で捉えられています。 焦点は、中央の隊長、副隊長ではありますが、その他のすべての人物も個性的に、民主的に描かれている点は見逃せません。 グループの肖像画にこうした躍動する姿を採用したのは、美術史上最初のことでした。 『夜警』を襲ったダメージ 『夜警』が400年近くを経た現在まで、その崇高な姿が見られるのは奇跡と言っても過言ではありません。と言うのも、これまで絵画にとっては致命的な出来事に襲われてきたからです。 ■1715年、画面の切り詰め この年、『夜警』は、火縄銃手司令部建物の広い宴会ホールから、アムステルダム市役所へ移動されました。その際、2つのドアのあいだのスペースに入らなかったため、上下左右が切り詰めされました。…

未完の『荒野の聖ヒエロニムス』はいつか絶対に観たい

ダ・ヴィンチ作品の真贋には、さまざまな議論があります。 その中で、この『荒野の聖ヒエロニムス』は未完成にもかかわらず、真作であることを疑う余地がない数少ない作品のひとつです。なぜでしょう? この作品にはダ・ヴィンチしか描くことのできない独自性が詰まっているからです。 もしも完成していたら、ダ・ヴィンチ以外にも多くの画家たちが手がけた『荒野の聖ヒエロニムス』の中で、異彩を放つ圧巻の作品になってことは間違いありません。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『荒野の聖ヒエロニムス』、103 cm × 75 cm、1482年頃、油彩、テンペラ、パネル(クルミ材)、バチカン美術館、バチカン ※この『荒野の聖ヒエロニムス』を含むダ・ヴィンチの絵画全作品が、「ダ・ヴィンチの5つの部屋」でご覧いただけます。ルネッサンスの臨場感をお楽しみください! バックグラウンド この作品が知られるようになったのは、19世紀アートコレクターで、ナポレオン・ボナパルトの叔父であるフランス聖職者ジョゼフ・フェッシュ(1773〜1839)のコレクションになってからのことです。 ポプラ材パネルに描かれたこの絵は、異なる場所で5分割された状態で発見されました。どうしてバラバラになったのか、そのいきさつについては分かっていませんが、奇跡的につなぎ合わされて蘇りました。 ダ・ヴィンチは、この作品を死ぬまでずっと手放さなかったのかもしれません。というのも、1525年の時点では、弟子サライ(ジャン・ジャコモ・カプロッティ)の所有物リストに2点の聖ヒエロニムスの絵画が記録されていて、そのうちの一点である可能性が高いからです。 作品の概要 題材 聖ヒエロニムス(347年頃 〜419/420年、記念日9月30日)は、西洋における4人のキリスト教の父(他は、アウレリウス・アウグスティヌス、アンブロジウス、グレゴリウス1世)のうちのひとりです。 また、聖書をギリシア語とヘブライ語から、ラテン語に翻訳しました。20世紀半ばまでカトリック教会における正式な聖書として知られるウルガタ聖書です。 『荒野の聖ヒエロニムス』は、ヤコブス・デ・ウォラギネ(1230年頃〜1298年)著『黄金伝説』の内容に影響を受けた描かれた可能性が高いです。『黄金伝説』とは、キリスト教の聖者たちの列伝で、ルネッサンス期にはイタリア語版だけで異なる11バージョン存在するほどに人気がありました。 ヤコブス・デ・ウォラギネ、『黄金伝説』、1290年頃 Photo:Sailko 聖ヒエロニムスには、ヘブライ語やギリシャ語を研究する「学者としての側面」もありますが、『黄金伝説』が強調したのは、カルキスの砂漠(シリア)砂漠で約4年間隠遁(374〜378年頃)し、壮絶な気候の中で、孤独や欲望と戦う「苦行者としての側面」です。 言うまでもなく、ダ・ヴィンチの『荒野の聖ヒエロニムス』は後者に焦点を合わせています。 内容 ローブをまとっただけの聖ヒエロニムスを画面中央に配し、岸壁とその奥に水面が広がる風景を背にし、左足を跪いています。その表情は、人間の限界をキリストへの献身で克服しようとする壮絶な魂の葛藤が描写されています。 石を握った右手を伸ばしていますが、これは聖ヒエロニムスのイコノグラフィーです。彼が苦行中に、邪悪な欲望を鎮静するために石で胸を打っていたことに由来します。 聖ヒエロニムスと言えば、ライオンと、十字架上のキリストも頻繁に一緒に描かれます。ここでは、ライオンは聖ヒエロニムスの前に横たわり、吠えているようです。十字架上のキリストは、右端にかすかに見えます。十字架上のキリストの左側には、教会があります。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、「荒野の聖ヒエロニムス」部分、バチカン美術館、ローマ ライオンは、聖ヒエロニムスがライオンの足に刺さった棘を抜き、治療して以来、共に過ごすようになったという伝説に由来しています。ダ・ヴィンチは実際にライオンを見たことがあり、その身体と尾のしなやかなカーブが確かな輪郭で描かれています。 ここが革新的 構図が斬新 岸壁の2か所からその奥を望む背景、聖ヒエロニムスとライオンの配置が斬新です。『荒野の聖ヒエロニムス』が、数年後に手掛けた『岩窟の聖母』への脚掛けとなっていることは明らかでしょう。岸壁の2か所からその奥を見渡せる背景も、そして中央で跪く聖母も酷似しています。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『岩窟の聖母』、1483〜1486、油彩、キャンバス(パネルから改変)、199 cm…

ストレスを軽減する美術展

フィンセント・ファン・ゴッホ、『アルル近隣のアイリスのある草原』、1888年5月、油彩、キャンバス、54 X 65cm, CR: Van Gogh Museum, Amsterdam 美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」が大盛況 ヒューストン美術館で開催されている美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」(6月20日まで)が、大人気となっています。 ホックニー作品の一部は、ロンドンローヤルアカデミーでも美術展「ノルマンディーの春の訪れ」(5月23日〜9月26日)でも公開されることになっています。しかし、すでにチケットは売れ切れとなっている状況です。 身体が自然を求めている 自然の中を15分散歩しただけで、ストレスホルモンであるコルチゾールが下がります。ですから、リモートワークの合間に行っていただくのは有意義です。 それに加え、たとえスクリーン上であっても、自然を描いた絵画に触れていただくのは健康上優れています。 なぜでしょうか? まず、絵画を観察するだけでコルチゾールが下がったという研究があります。また、人間は、木、植物、あるいは緑を見れば、脳は反応して、かつて自然に触れたときの記憶と統合して解釈をすることができるからです。 自然の解放感や爽快感や、緑のみずみずしさを体感してストレスを軽減できるというわけですね。 試してみると… 実際に、美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」で試してみると感じていただけると思います。 残念ながら、ホックニー作品は著作権の関係でこのページには出せないのですが、美術展リンクから入って、左上のホックニーの絵画「Woldgate Vista」をクリックいただくと、素晴らしい作品群が拡大してご覧いただけます。 いかがでしょうか。おそらく、自然や色彩に脳が反応して、自分自身が自然に入り込んでいるかのような気分になっていただけるでしょう。 今週もお疲れさまでした。良い週末をお過ごしください!

『魂の経営』と『両利きの経営』

コロナ禍の政府の動きを見ながら、「日本のリーダーシップは大丈夫か?」と感じずにはいられない今日この頃ではないでしょうか。 今回は、「不透明な事態のリーダーシップはどうあるべきか?」という、今まさに旬なトピックについて教えてくれる2冊の書籍を共有したいと思います。 結論から申し上げますと、知識や経験だけではダメで、やはり「知覚力」が問われるのです。 富士フィルムはいかに危機を乗り越えたか? この2冊に共通するのは、富士フィルムホールディングスのサクセスストーリーです。 『魂の経営』の著者は、現富士フィルムホールディングス代表取締役会長、古森重隆氏です。ご存知の方も多いと思いますが、同社の大改革の立役者です。今年6月には、退任して最高顧問となる予定です。 Photo: Amazon Photo:fujifilm.com 古森氏は、フィルム産業低迷期の始まりであった2000年に社長に就任して医療・製薬・液晶分野を開拓し、成長を牽引し続けた人物です。 その一方、フィルム産業でライバルだったコダックは、ちょうど古森氏が社長就任した頃から、みるみると衰退していきました。そして遂に、2012年に倒産処理手続きに至っています。この2社を比較すると、当時の危機の大きさと古森氏の手腕の凄さは簡単にご想像いただけるでしょう。 『魂の経営』は、そのキーパーソンである古森氏自身の回想録です。経営手法の他、心情や信念にも踏み込まれています。 他方、チャールズ・オライリー(スタンフォード大教授)&マイケル・タッシュマン(ハーバード大教授)著『両利きの経営』は、経営学的視点から、富士フィルムとコダックの戦略の差にフォーカスして書かれています。 古森氏の主観、研究者の客観的ビジョンを並べて読むと、危機の乗り越え方がより深く理解できて面白いです。 Photo: Amazon しっかり知覚してから土俵に立つ 不透明な事態で成功するためには、もはや知識とか経験の比重は少ないという事実も浮かび上がってきます。 なぜならば、スピーディーに変化する世の中では、自分の脳だけで判断しても役に立たないからです。その大前提として、「何を観るか」がどうしても問われます。 富士フィルムが、PDCA(Plan, Do, Check, Action)ではなくて、STPD(See, Think, Plan, Do)を重視しているのは、こうした理由によるのです。 直観とは知覚の賜物 さらに古森氏は、リーダーには、マッスル・インテリジェンスが必要と言います。 「やると決めたら、スピーディーにダイナミックにやる。.....中略.....火事などの災害に見舞われられたときに、どの方向に、どれくらいの速さで走って逃げれば逃げ切れるか。そんなことは教科書には書いていないし、学校の成績とも関係がない。そういう状況で切り抜けられる人と、そうでない人の差は、インテリジェンスの差ではなく、本能・直感の差である」 この「直感」と書いていらっしゃいますが、ビジネスの決断の話なので、おそらく「直観」の方を意図しているものと思います。眼の前の状況を観察しながら、それが脳の中で統合されて直観がふっと舞い降りてきます。この時は、それまで自分が知覚してきた蓄積(いわゆる知識)が功を奏します。…

仕事で活きる、教養読書 ー科学・技術・工学・アート・数学のあらゆる分野から学ぶー

来週火曜日、株式会社ヤプリのイベントに登壇いたします。アート部門16:00-16:50です。 このイベントですが、STEAM(Science 科学, Technology 技術 , Engineering 工学, Art アート, Mathematics 数学)になぞられて開催されます。 そうなんです!21世紀の人材のために必須の教育科目である5分野の専門家が、最新著書を紹介していきます。基調講演である東京大学名誉教授である早野龍五先生を加えますと、6冊分の知識が身につくという粋な催しとなります。 個人的には、京都女子大学 山岡俊樹先生による「デザイン人間工学に基づく問題解決とサービスの構築」がとても楽しみです。 ところでちょっと前までは、STEM(Science, Technology, English, Mathematics)と言われ、それがSTEAMと変わり、現在では、読解力や書く力(Reading と Writing)が加わり、STREAMに着地しています。確かにコロナ下では、読解力、書く力のパワーが、コミュニケーション能力の一環として鮮明化しています。 その一方、「アートは本当に必要なのか」という疑問は後を絶たないのが事実です。残念ながら...。 というわけで、このイベントでは「これからの未来にもアートが重要な理由」についても力説いたしますので、ご関心のある方はぜひ覗いてみてください。 お申込みはこちらからできます。