名画と関連づける練習

2018〜2019年にかけて爆発的に流行したツイッター(名画で学ぶ主婦業)をご存知でしょうか。 名画のシーンが、主婦ならでは「あるある」と関連づけてつぶやかれていたのです。 それをまとめた書籍も出版されています。 例えば、次のフェルメール『牛乳を注ぐ女』についてですと、「ボディーソープの詰め替え、結局、私がやっているな」とつぶやかれています。 ヨハネス・フェルメール、 『牛乳を注ぐ女』 、1687年頃、45.5 X 41 cm、アムステルダム国立美術館 芸術と日常的な行動を結びつけることに、顔をしかめる方もいらっしゃるかもしれません。 でも実は、この関連づけの行為は、クリエイティビティのためにとても有効な頭の体操です。と言うのも、クリエイティビティとは、「物事を関連づけて別次元に行く行為」だからです。 ツイッターではたまたま主婦業と結びつけたわけですが、どんな考えともつなげることができます。そして関連づけることは、発想を飛ばすために有意義です。 実際に絵を見ながらやってみると、アイディアがめくるめく湧いてきて、自分の創造力に感動していただけると思います。 例えば、次の この紀元前530年頃の壺を見て、何を関連づけますか。 黒絵式クラテール(ワインと水を混ぜるのに使用した壺)、紀元前530年頃、アテネ考古学博物館 2700年の時を経て、今年2019年の大事件と結びつけるかもしれません。そう、香港の反政府大規模デモですね。 関連づけには、フレキシブルな思考が必須です。アートは、それを鍛えるためのツールとして大変優れています。 参考:Kevin Grovier, ”The Most Striking Images of 2019.”

ラファエロ2020美術展リスト

2020年は、ダヴィンチ、ミケランジェロともに盛期ルネッサンス3大巨匠であるラファエロ・サンティ(1483-1520)の没後500周年にあたります。 それを記念し、世界中で行われる美術展をリストアップしておきましょう。 『ウルビーノのラファエロと友人たち』マルケ国立絵画館、ウルビーノ ■2019年 10月3日〜 2020年 1月 19日 ウルビーノで生まれたラファエロが、最初の師であったピエトロ・ペルジーノから何を学び、ジュリオ・ロマーノなどの弟子たちに影響を与えたかを探る展覧会です。 次のロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵『アルドブランディーニの聖母』が観覧できます。 ラファエロの最も円熟した聖母子像と言える作品です。 ラファエロ・サンティ、『 アルドブランディーニの聖母 』、1511、38.9 x 32.9 cm、ナショナルギャラリー、ロンドン 『ラファエロ in ベルリン:ゲメルデガレリー(絵画館)の聖母』ベルリン美術館 ■ 2019年12月13日〜 2020年4月26日 別ブログに詳しく書いていますので、そちらをぜひご覧ください。 『ラファエロとその仲間たち』ナショナルギャラリー、ワシントン ■2020 年 2月16日〜 2020年 6月14日…

ダ・ヴィンチとコンタクトレンズ

ダ・ヴィンチの人体解剖図は、医学史の 50〜100年も 先を行っていました。 その医学への貢献については、別ブログをご覧ください。 人体解剖図ほどに広くは知られていませんが、ダ・ヴィンチが、医学史の300年先じていた例があります。彼は、コンタクトレンズの発明へとつながる先進的なアイディアを持っていたのです。 コンタクトレンズという着想が本格的に発展し始めたのは、19世紀初頭のこと。そして 1888年に 、 ドイツ医師・サイエンティストであったアドルフ・オイデン・フィック(1829-1901)が 、 最初のコンタクトレンズを完成させています。 そのコンタクトレンズは、次の写真のような厚いグラス製で眼の全体を覆うものでした。痛そうだし、危険そうです。 視力矯正のための世界初のコンタクトレンズ、1888年以降 ダ・ヴィンチが、コンタクトレンズの元祖的アイディアを記録に残したのは、なんと1508年のことです。なんという先見の明でしょうか。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、マニュスクリプトD、1508-1509、222 X 160 mm, フランス国立図書館 ダ・ヴィンチは常に、アーティストとして「いかに正確に観察するか」に情熱を傾けていました。特に光が、どのように眼の角膜、瞳孔、水晶体、視神経を通過するのかについて興味を持ち、頻繁に描いています。 ところで上のスケッチは、何を意味するのでしょうか。 ひと言で言えば、ダ・ヴィンチは「視覚を良くするための人工の眼」を作成しようとしていました。 水を入れた球体のグラスで人が顔を覆うと、通常見えないはずの肩のあたりまで見ることが可能になります。なぜなら、水が入った透明な凸状の表面が、周辺視野からの光を屈折させることによって瞳孔に集中させることができるからです。 こうしたダヴィンチの「光の屈折を利用して視力をより向上させたい」という願望は、その後も長い間引き継がれたようです。 ダヴィンチの死後、1世紀余を経てからも、哲学者/サイエンティストであったルネ・デカルト(1596-1650)が熱心に研究していたことが分かります。 ルネ・デカルト、視力を完璧にする手段、『 La Dioptrique 』、1637. 写真:The…

今こそ『ひまわり』を鑑賞しておきたい

今のうちに、SOMPO美術館 所蔵のフィンセント・ファン・ゴッホ『ひまわり』をじっくりと観察しておくといいかもしれません。 常設展示なので、開館時には思う存分に観ることができます(混雑していなければですが)。美術館の粋なご配慮で、ベンチも置いてあります(ない時もあるかもしれないのでご注意を)。 まずは、そのSOMPOバージョンの 『ひまわり』 を御覧ください。 フィンセント・ファン・ゴッホ、『ひまわり』、100 x 76cm、SOMPO美術館 画像でも、ファン・ゴッホの創造性に圧倒されますが、 実物は迫力があり過ぎて、言葉にもできないくらい名画です。短時間ではとても見尽くせないです。 でもなぜ、今鑑賞しておくべきなのでしょうか。 その理由は、来年のロンドン・ナショナル・ギャラリー 展で、ヨーロッパから門外不出だった、第2の『ひまわり』 が、次のようなスケジュールで来日するからです。 国立西洋美術館(東京)2020年 3月3日(火)〜 6月14日(日) 国立西洋美術館(大阪)2020年 7月7日(火)〜 10月18日(日) フィンセント・ファン・ゴッホ、『ひまわり』、 92.1 x 73 cm、ロンドン・ナショナル・ギャラリー ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵 『ひまわり』 ですが、ヨーロッパを出たことのない、しかもナショナル・ギャラリーから移動されることさえ珍しい絵画です。 それほどまで大切にされている絵画…

ダ・ヴィンチの人体解剖図

アートの領域だけでなく、植物学、光学、地質学などサイエンスの領域へも踏み込んだダ・ヴィンチですが、彼が最も関心を持っていたひとつが人体解剖学です。 ダ・ヴィンチは、約30体の人体を解剖したとされています。そして緻密な観察から、史上初の正確な人体解剖図を描きました。 残念ながら、その偉業は1900年まで出版されませんでしたが、もしも彼の死後まもなく書物として流布していれば、半世紀から1世紀早く、人間の人体への理解は深まっていたことでしょう。 と言うのは、50年程遅れて、医師・解剖学者だったアンドレアス・ヴェサリウスが『人体構造論(ファブリカ)』と 『人体構造の梗概(エピトメー)』 を出版して「近代人体解剖学の祖」と呼ばれているからです。 また、ダ・ヴィンチの測定的な観察については、さらに50年下リ、医学に定量的アプローチをもたらした医師・生理学者サントーリオ・サントーリオに匹敵するとも言われています。 アンドレア・ヴェサリウス著、『人体構造論』、190ページ 上のヴェサリウス著のドローイングは、ティツィアーノ・ヴェチェリオの弟子であったジャン・スティーブン・カルカー(1499?〜1546)とされています。医学書というのが信じられないドラマ仕立てで面白いです。 ダ・ヴィンチの人体解剖図は150シートが現存し、イギリス王室コレクションに保存されています。 そして興味深いのは、 ダ・ヴィンチ が1489年、そして1507〜11年に集中して人体解剖図制作に没頭していることです。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『切断した頭蓋骨』、1489、18.8 x 13.4cm、イギリス王立コレクション、Royal Collection Trust / © Her Majesty Queen Elizabeth II 2020 最も早い時期におこなった人体解剖のひとつが、1489年4月で頭蓋骨でした。ダ・ヴィンチは、脳と身体の関係を知り、絵画制作のために役立てたかったと記しています。 その後 1510〜1511年 に、20体もの人体を次々に解剖しています。パヴィア大学解剖学教授マルカントニオ・デル・トッレ(1481-1511)との共同作業だったようです。…

世界一古いナラティヴアートがアジアで発見された?

近年、洞窟画からワクワクする発見が相次いでいます。 まず2018年は、従来の学説が覆った記念すべき年でした。どういうことでしょうか。 今まで、クロマニヨン人が史上最初のアーティストだと信じられてきました。ところが、スペイン3か所の洞窟画で実施された年代測定で、6万4千年以上前にまで遡ることが判明したからです。 つまり、史上初のアーティストは、 クロマニヨン人 から、想定したよりもはるかに洗練されていたネアンデルタール人へと書き換えられたわけです。 その画像を挙げましょう。右の描き起こしの方を見ると、動物のお尻部分がはしご、あるいは柵に囲われているように見えますね。あくまでも推測に過ぎませんが…。 スペイン、ラバシェガ洞窟壁、右は描き起こし 写真:ロサンジェルスタイムス さらに2018年後半には、南アフリカで、7万3千年前まで遡るドローイングも発見されました。下の画像をよく見ると、9本のラインが交差して書かれています。何かのシンボルでしょうか。 南アフリカ、ブロンボス洞窟 そして2019年末、科学的年代測定法が再び、また既存の学説を書き換えるニュースが入ってきました。 何かと言いますと、世界一古いナラティヴ(ストーリーを語る)アートの年代が書き換えられそうなのです。しかもその所在地は、ヨーロッパでもアフリカでもなく、アジア。しかもその年代は、4万4千年前まで遡ります。 狩猟シーン、インドネシア、スラウェシ島 写真:Ratno Sardi/Griffith University その絵は狩猟シーンで、左の人間らしき人々がロープや槍のようなもので、右の牡牛のような動物を仕留めようとしています。左の方はよく見えませんが、右の動物の描線は迷いなく描かれています。 これまで最初のナラティヴアートは、 2万年以上前よりも遡らないフランスラスコー洞窟と信じられていました。それを2万年以上も更新したわけです。 今後も、「人間とクリエイティビティ」の起源の解明に目が離せません。

ラファエロ2020の第2弾 ベルリン美術館絵画館

ダ・ヴィンチ没後500周年を記念する美術展の興奮はまだ冷めることはありません。 にもかかわらず、なんと来年は、ダヴィンチ、ミケランジェロともにハイルネッサンス3大巨匠であるラファエロ・サンティ(1483-1520)の没後500周年にあたります。 わずか37歳で夭折したラファエロですが、信じられないほど多作で、絵画から、ドローイング、版画、彫刻、タペストリー、教会デザイン、詩までに関わっています。 短命でも 彼の芸術性を存分に昇華できた理由は、彼の「完璧な紳士」のような性格にあったと言われています。温和で誰の意見にも耳を傾け、パトロンたちの信頼を築き、工房のマネジメントにも活かされたのです。 ラファエロの芸術が結集する美術展が続々と予定されていますが、 その第2弾が開幕しました。第1弾はすでにラファエロ生誕地、ウルビーノにあるマルケ国立絵画館にて『ウルビーノのラファエロと友人たち』が始まっています。 ベルリン美術館『ラファエロ in ベルリン: ゲメルデガレリー(絵画館) の聖母』 2019年12月13日〜 2020年4月26日 ところで何がハイライトなのでしょうか。 当美術館が所蔵する5点の『聖母子像』とロンドンナショナル・ギャラリー『カーネーションの聖母』を、ひとつの部屋でじっくりと観察する贅沢すぎる展覧会なのです。 ベルリン美術館「ラファエロ in Berlin」 (AP Photo/Markus Schreiber) その中心に展示された目玉が、メダリオン型ポプラ材パネルに描かれた聖母子、洗礼者ヨハネ、聖なる子です。視線を投げ方、肌の透明感、バランスのとれた背景、イノベイティブな構図が、ラファエロの独創的な世界を創っています。 ラファエロ・サンティ、『テラヌオーヴァの聖母』、1505頃、88.5 cm、ベルリン美術館 面白い比較としてもう一枚油彩を見てみましょう。聖母子とともに、聖ヒエロニムス(左)と聖フランシスコ(右)が描かれています。上の絵のわずか3年前に書かれた絵なのですが、少し硬さがあることに気がついていただけるのではないでしょうか。でも、構図のユニークさ、整然とした背景との一体感、微妙なテクスチャーの描き分けはすでに際立っています。 ラファエロ・サンティ、『聖母子と聖人』、1502頃、35.3 X 29.8 cm、ベルリン美術館 ラファエロのドローイング力は、世界の名立たる画家の中でも傑出しています。ドローイングを観察すると、彼の天才ぶりが一層鮮やかに分かります。…

師匠の芸術性も崇高だった!アンドレア・デル・ヴェロッキオ展

ダ・ヴィンチ没後500周年ということで、今年は、世界中の美術館、図書館、博物館で関連する展覧会が開催されています。 ダ・ヴィンチそのものがフォーカスではないのですが、素晴らしい美術展が、ワシントン・ナショナル・ギャラリーで催されています。 それが、『ヴェロッキオ:ルネッサンス時代フローレンスの彫刻家・画家』です。2019年9月15日〜 2020年1月12日となります。 ヴェロッキオ(1435-88頃)の名前になじみがない方も多いのではないでしょうか。ところが実際には、レオナルド・ダ・ヴィンチ の他、 ピエトロ・ペルジーノ(ラファエロの師)、そしておそらく サンドロ・ボッティチェリ を育てた恐るべきアーティストなのです。 残念ながら、ダ・ヴィンチの師匠ということばかりが強調されている影で、 ベロッキオ の技術、才能、芸術性は過小評価されているのが現実です。 この展覧会は、まさに「ルネッサンスに、ヴェロッキオあり」と痛感させてくれます。もしもヴェロッキオが師匠でなければ、 ダ・ヴィンチはここまでの芸術家としての名声は築けなかったでしょう。 では、ヴェロッキオの作品を見てみましょう。 アンドレア・デル・ヴェロッキオ、『聖母子像』部分、1465〜70頃、ベルリン美術館 アンドレア・デル・ヴェロッキオ、『聖母子像』、1465〜70頃、54.6 X 75.8 cm、ベルリン美術館 彫刻家としてトレーニングを積んでいたこそ、人物の存在感、またベールやケープやドレスの質感と詳細がみごとに描き分けられています。 この絵画の写実性を、ヴェロッキオは、もちろん彫刻でも遺憾なく実現しています。 アンドレア・デル・ヴェロッキオ、『花を持つ女』、1475〜80年頃、60 cm、バルジェロ美術館、フィレンツェ 手とドレスの質感を、あまりにもみごとにとらえられています。この彫刻で思い出されるのが、あのダ・ヴィンチ作『ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像』です。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、 『 ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像 』、38.1 X…

ティファニーを買収したベルナール・アルノー

フランスのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン) が、米国籍のティファニーを162億ドル(約1兆7496億円)で買収する発表は、2019年の大きなビジネスニュースのひとつでした。 LVMH のCEOであるベルナール・アルノーは、世界富裕ランキング2019で ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスに次いで第3位。IT企業繁栄の中で、ラグジュアリー業界の底力を感じます。 ベルナール・アルノー、アンリ・マチス『赤のハーモニー』の前で。写真:wwd.com 実は、このアルノーですが、知る人ぞ知る世界屈指のアートコレクターのひとりです。モダン、コンテンポラリーアートを主流とし、パブロ・ピカソ、アンディー・ウォーホール、ジャン=ミシェル・バスキア、ダミアン・ハーストなどを所有しています。 しかし彼が最初にアートオークションで落札した絵画は、クロード・モネの連作で有名な『チャーリングクロス橋』の一枚だったそうです。モネが実際に入手できる事実に感動したことを語っています。 フランスで美術鑑賞というと、どうしてもルーブル美術館、オルセー美術館などが頭に浮かびがちですが、 コンテンポリーアートにジャンルに関しては、それらに匹敵する価値があるのが、 アルノー のコレクション と言えるでしょう。 そんな素晴らしいコレクションは、2014年に完成したフォンダシオン・ルイ・ヴィトン(FLV)で観覧することができます。 FLVの建築デザインを担当したのは、建築のノーベル賞とも言われるプリツカー賞受賞(1989)したカナダトロント出身のフランク・ゲーリーです。 フォンダシオン・ルイヴィトン © Gehry Partners, LLP and Frank O.Gehry. Crédit Photo © Iwan Baan, 2014 前衛的にもかかわらず、周囲の自然にしっくりとなじんでいる外観が、建築家としての力量を語っています。またモニュメンタル性が、世界をリードするラグジュアリーブランドのシンボルとしてぴったりです。