センスを磨く―まずは「色」から

センスは磨けるのか?

「スキル」は磨けるけれども、「センス」は磨けないと言う方もいらっしゃいます。

ダヴィンチ研究所ですが、「センスも全然鍛えられる」という立場です。センスって、要するに「知覚力」のことだからです。実際にそのことを証明するさまざまなエビデンスや理論もあります。

このブログでは、センスを磨くための出発点のひとつである色に注目してみたいと思います。

高度にビジュアルな現代社会では、アーティストやデザイナーの方々のみならず、色はさまざまな創造的センスと関わっていますし、色に敏感であることはキャッチする情報も断然豊かになります。



色は世界を観察する基本

普段あまり意識することはないかもしれませんが、色は、観察のための基本中の基本です。

空の色で天候や時間を、水の色で清浄さを、顔色で健康状態を、生鮮食品の色で鮮度を、土の色で地質などを判断しています。

遠距離から色を見て何が起こっているか(紅葉、パトカーの色など)について察しをつけることもありますし、色が場所や犯人についての記憶を助けること(建物や服装の色など)もありますね。


水質調査のサンプル Photo: Chase BC

色に対する心理的反応

色は、心理的反応を引き起こします。

例えば、赤は、「情熱や積極性」グリーンは、「平穏さや生命感」紫は、「高貴」というように解釈されることがあります。

また色の組み合わせによって、まったく異なるムードが醸し出されます。同色を組み合わせると「調和的」、補色ですと「エナジェティック」に感じられます。

こうした色によって引き起こされる感情やムードは、以前からマーケティングやブランディングに利用されています。昨今では、聞き手への効果を目的として、データ作成でも考慮されるようになりました。

※補色とは、色相環の正反対に位置し、混合すると無彩色が作れる2色です。


色相環――正反対に位置するのが補色

色でセンスを磨く方法

  • 日常的に色を考察する

色とは、物質にあたった光の反射に対する眼と脳の知覚です。つまり、色の数は、理論的には無限なのですが、おおよそ18デシリオン(18にゼロを33個)と言われています。

ただし、名前が与えられている色は、その中のほんの一部です。

日本の伝統色は、465色です。その一方、英語では基本色は11色ですが、日常的に使用する色名は31色ほどです。しかし、Do it yourself の国であるアメリカでは、ペンキを選ぼうとすると2000色くらいあるので圧倒されます。


ベンジャミン・ムーアというペイントブランド、発色に定評有り Photo: Benjamin Moore List of Stores

これだけの色があるのですから、赤色を赤、黄色を黄とだけ感じていたとしたら、アバウト過ぎますよね(笑)。

白と言っても、「いったいどの白?」と意識してみることが、感受性の幅を広げ、創造の精度を上げる第一歩となるでしょう。


  • 絵画で観察する

絵画を観察する時に、丁寧に色に注目する時間を持ってみると、色の幅・色の意味・心理的効果などが一気に理解できます。

例えば、一枚の絵を取り上げてみましょう。さて、どんな色が描かれているでしょうか。

赤色が目立ちますが、それを赤とだけ解釈してしまうと、薄ぺっらい理解で終わってしまいます。その一方、赤を掘り下げてみると、いろいろな情報が見えてきます。

一瞬赤と思ったのは、実際には、オレンジ色の太陽が降り注ぐピンク色寄りの赤です。さらに目をこらすと、その色は、位置・地形・反射する物の色によって微妙に変化しています。

太陽の左には、火山が描かれていて、そこから直角に上がる黒煙は太陽に向かってたなびき、光と混じり合って灰色や茶褐色です。オレンジ色の太陽は、上の部分が濃い赤で煙を押し上げるかのような力が感じられ、地平線から湖面にその光の軌跡を残しながら昇っています。太陽の周りは、最も透明性が高いピンク色で描かれています。


■この絵の正体

フレデリック・チャーチ作『コトパクシ山』、1862年、油彩、キャンパス、デトロイト美術館


実は、この作品には見逃せない歴史的背景があります。描かれた当時は、アメリカ南北戦争の真っ最中だったのです。

この絵画の主題である南米エクアドルにあるコトパクシ山は、最も危険な火山のひとつと見做されていますので、「戦争の暴挙」、それと対比して清浄な太陽の周辺は、「希望」の比喩として描かれたようです。

しっかりと色を観察すると、「火山と太陽の対比に意味がありそうだ」という発見ができたはずです。


まとめとおまけ

というわけで、センスは、知覚力として磨けます。色は最もベーシックな手段ですが、意識すれば日常的に高めていくことができます。それ以上の訓練は、ダヴィンチ研究所の研修にお任せください!

ところで、画家フレデリック・チャーチは大富豪です。彼の丘の上の大邸宅に行ったことがあるのですが、犬が大喜びで丘を駆け回ったおかげで、ヘトヘトになったのが良い思い出です。お城のような邸宅の一部は、次の写真となります。


フレデリック・チャーチの家の前にて、米国ニューヨーク州グリーンポート