左脳、右脳タイプという神話

脳科学分野は、21世紀に入ってからものすごいスピードで驚異的に発展しています。ちょっと前の発見が、アッという間に塗り替わっていたことも珍しいことではありません。 ところで、左脳は「ロジック」を、右脳は「クリエイティビティ」をコントロールしていると信じている方はいらっしゃいませんか。まだまだネット情報を含めて、さまざまな場所で浸透しています。 しかし、実はもう神話になっています。科学的根拠がないので、アップデートする必要があります。 その理由を共有いたしましょう。 なぜ神話は生まれたのか? 左右に分かれている脳 その神話の起こりは、私たちの脳が、そもそも左と右に分かれていることです。 脳の外見だけではなく、機能的にも左右に分担されています。左脳は、右の手足を、右脳は左の手足の動きをそれぞれコントロールしています。 また、眼に関して言えば、左目と右目それぞれが、左と右側の視野を見る機能が備わっています。左側の視野の情報は右脳に、右側の情報は左脳に伝達されます。そして、左と右視野が合体して、全視野の情報として認知されるわけです。 こうした事実から、「左脳と右脳は別の機能を持っている」という認識が生まれ、神話を作り出す土台となったのです。 ブローカ Broca とウェルニッケ Wernicke の研究 ピエール・ポール・ブローカ Photo: Wikipedia カール・ウェルニッケ Photo: Wikipedia その認識に拍車をかけたのが、19世紀のふたりの医師・解剖学者ピエール・ポール・ブローカとカール・ウェルニッケによる偉大な功績です。 いったいどういうことでしょうか? 彼らは、脳の左側前頭葉のある部位を損傷すると、言語機能に障害(失語症)が発症することを発見したのです。つまり、彼らは、脳の局在機能を初めて認識したわけです。 この発見後、彼らは、障害部位と失語症の関連性を分析しました。 そして、ブローカは、左下前頭回付近(彼の名にちなみ、ブローカ野)が発話のための能力を、ウェルニッケは、左上側頭回後部付近(彼の名にちなみ、ウェルニッケ野)がスピーチを理解する能力を司っていると解明しました。 Photo: Wikipedia 小説『ジキル博士とハイド氏』 こうした「言語は左脳でコントロールされている」という発見は、巷で歪曲され始めます。…

ムンクを見にノルウェーに行きたい!

さて、夏休みのプランはお決まりでしょうか。 「ギラギラの太陽が大好きで、海のリゾート地の一択」という方は別として、今年の夏、ノルウェーを訪れるべき理由はたくさんあります。 熱帯化している日本を脱出 8月のオスロの平均気温は、なんと最高/最低気温は21/13度です。そして東京の最高/最低気温は、31/23度ですから、ちょうど10度違います。 そしてウェザーニュースが出した7〜9月の見通しによりますと、日本は全国的に猛暑で、特に北日本から西日本では平年より厳しい暑さになることが予想されています。35度以上の猛暑日が連続した6月、あの危険な暑さが再来することは十分あり得ます。 オスロオペラハウス Photo: visitnorway.com コロナ感染者が少ない 2022年7月3日時点ですが、ノルウェーのコロナ感染者は112人となっています。 これから増加する可能性があったとしても、少なくとも2か月程度は落ち着いている可能性は高いのではないでしょうか。 ムンク美術館 もちろん、ノルウェーを訪れる理由は上記2つだけではありません。 3つめの理由が、ムンク美術館です。この夏、ムンク美術館を格別に堪能できる訳を2つ挙げますね。 ■コロナでふさぎ込んだ気分をムンクと共有したい ムンクは、少なくとも5000万人が亡くなったスペイン風邪(1918〜1921)の感染者であり、サバイバーでした。ムンクはスペイン風邪から回復しましたが、同時期のオーストリア画家グスタフ・クリムトとエゴン・シーレは残念ながら亡くなっています。 そしてムンクは、感染中と感染後の自分のストレスと絶望に満ちた心のひだを、独特の線描と色彩でみごとに捉えた作品を制作しています。下に掲載しています。(※感染中の自画像の方は、最後でご紹介するノルウェー新国立美術館の所蔵となりますので、お間違いなきようにお願いします) コロナの今だからこそ、ムンクの自画像を眼の前にして彼の感情とシンクロできそうです。 エドヴァルド・ムンク、『スペイン風邪を患った自画像』, 1919, 150 cm X131 cm, 油彩、ノルウェー新国立美術館 エドヴァルド・ムンク、『スペイン風邪後の自画像』, 1919, 59cm X73cm, 油彩、ムンク美術館 ■ムンク美術館は2021年に新たな美術館としてオープンしたばかり…

エリザベス女王のアートコレクション

エリザベス女王即位70周年祝賀パレード Photo: Royal Collection Trust (エリザベス女王が、英国時間2022年9月8日午後にご逝去なさいました。ご冥福をお祈りいたします) エリザベス女王在位70周年が、世界各地で祝福されました。 彼女の乗馬や犬好きはたびたびニュースになりますが、アートコレクションとの関係はあまり知られていないのではないでしょうか。 実は、世界的なアートコレクションを管理しており、その中にはレオナルド・ダ・ヴィンチの人体解剖図で有名な ウィンザー手稿 も含まれています。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『足と肩の骨』、1509-1510年頃、28.7 x 19.8 cm、ペン、インク、チョーク、(c)Her Majesty Queen Elizabeth II, 2022 もちろん、彼女の個人的なコレクションではなく、代々承継される王室と国家のためのコレクションなのですが、エリザベス女王自身の名前で管理しているところが珍しい例です。そのため、 著作権には、 Her Majesty Queen Elizabeth II と入っています。 ローヤルコレクションの規模 例えば、ルーブル美術館の美術品収蔵数は合計約38万、ニューヨークメトロポリタン美術館は合計約150万と言われています。ご参考までですが、日本の皇室コレクションは約9,800点です。 ローヤルコレクションは合計約100万で、内訳を次の通りです:…

ダ・ヴィンチが最晩年まで攻めた証『聖アンナと聖母子』

ダ・ヴィンチの最晩年の作品のひとつをご紹介しましょう。 クリエーターの晩年作というのは、強い遺志が込められているようで特別なものです。もしかすると「ダ・ヴィンチが最後まで手を入れていたのは本作品だったのかも」と考えるだけでドキドキします。 最晩年作のひとつには他に『洗礼者ヨハネ』がありますが、作風がまったく異なる点が興味深いのと同時に、ミステリアスでもあります。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『聖アンナと聖母子』、1507〜1508年頃から制作開始、油彩、パネル(ポプラ材)、168 cm X 130 cm、ルーブル美術館、パリ ※この『聖アンナと聖母子』を含むダ・ヴィンチの絵画全作品が、「ダ・ヴィンチの5つの部屋」でご覧いただけます。ルネッサンスの臨場感をお楽しみください! 作品の概要 ビジュアル分析 岩山の上に親子3世代―聖アンナ、聖母マリア、幼児キリスト―が集まっている光景を描いています。 幼児キリストは、子羊(生贄のアイコン)とたわむれ、抱こうとしてしています。聖母は、聖アンナの膝に座りながら、幼児キリストを諭すような視線を送り、子羊から引き離そうとしているように見えます。聖アンナは、おそらく岩に座り、その2人を見守るように見つめています。 右上の手前の木は、三世代を描いていることと合わせて解釈すると、神という存在が永遠につながっていることを象徴する「生命の木」であることが推測できます。 背景には、空気遠近法(大気の性質を利用した色による遠近表現)を駆使した遠山が、聖母のドレスの色と呼応するかのように青く、幻想的に広がっています。 作品のバックグラウンド ■制作年代はピンポイントできない 制作年代、依頼者については明らかな証拠があるわけではありません。ただし、資料をつなぎ合わせると、ダ・ヴィンチは、この絵について1500年頃から晩年までという長い期間に渡り、熟考、制作していたことが分かります。 また、実際に制作を開始したのは、そのスタイルの特徴から、1507年頃(1499〜1502, あるいは1503年説あり)と考えられます。 ■本作品は未完成 ダ・ヴィンチは、『聖アンナと聖母子』を完成していません。メトロポリタン美術館キュレーター、カーメン・バンバックは、2012年の保存修復後に調査し、特に人物のモデリング(聖母の顔を含む)と仕上げ部分について未完成であることを指摘しています。 ■依頼者は誰か? 依頼者については、複数説あります。ひとつをご紹介しますと、ルイ12世説があります。彼が、アンナ・ド・ブルターニュ(シャルル8世の元妃)を妃として迎え、娘クロードの誕生(1499年10月)が依頼のきっかけとなったと考えられます。聖アンナと妃が同名であることも辻褄が合います。 しかし、何らかの原因により、この作品は依頼者の手元には届けられませんでした。というのも、1517年にはまだ、ダ・ヴィンチの手元にあったことが判明しているからです。そして翌年1518年に、フランソワ1世が購入し、ダ・ヴィンチの弟子サライに多額の金額が支払われています。 しかしながらこの説にも疑義が唱えられていますし、その昔、有力だったフィレンツェのサンティッシマ・アンヌンツイアータ聖堂からの委嘱説はおおかた否定されています。決定的情報は、今のところまだ出てきていません。 ■ナショナルギャラリー、ロンドンにある下絵との関係 ナショナルギャラリー、ロンドンには、『聖アンナと聖母子』制作の準備段階で描かれた下絵が存在します。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『聖アンナと聖母子と幼児洗礼者ヨハネ』、1500〜1508年頃、141.5 x…

マネジメント、人事に不可欠なこの一冊

ダニエル・カーネマンと言えば、認知心理学者で、2002年に、経済行動学への貢献でノーベル経済学賞を受賞しています。そして、世界的ベストセラーになった『ファースト&スロー: あなたの意思はどのように決まるか(Thinking Fast and Slow)』の著者です。手に取られた方も多いのではないでしょうか。 そんな彼が、同僚2人――HEC経営大学院教授オリビエ・シボニー、ハーバード大学ロースクール教授キャス・R・サスティーン――と書いた最新刊が、『Noise: A Flaw in Human Judgment』です。翻訳版タイトルは、『Noise: 組織はなぜ判断を誤るのか』で、上下2巻本となっています。 左から、カーネマン、シボニー、サスティーン Photo: nextibigideaclub.com 正直、大ヒットの『ファースト&スロー: あなたの意思はどのように決まるか(Thinking Fast and Slow)』の後ですから、そんなに期待していませんでした。ところがみごとに裏切られ、個人的には深い思考に誘因されたと言う意味では、前著以上に傑作でした。カーネマンは、なんと今年88歳。でも、彼の知力は留まることを知りません。 副題を見ると、「人間の判断の盲点」を広く扱った内容と想像しがちなのですが、実際には、「人間に対する危うい人間の評価」がメイントピックとなっています。 ひと言で言えば、「組織ではいかに、いい加減に人間が評価されているか」という中身です。半端なく理不尽で、残酷な例が出てきます。 そして、この正当でない評価を作り出しているのが、Noise です。コンテクストによってさまざまなNoiseが存在します。イメージとしては、次の画像のような感じです。 Noiseには例えば、どんな天気なのか、時間帯はいつなのか、誰が最初に意見を言ったか、あるいは単純に個性などが含まれます。これらの影響を受けながら、人間が5段階スケールで評価する時、その判断力はあてにならなくなります。 入社試験や昇進で思い通りにいかなかった時、人は「自分の力量のせいとか、運のせい」と自己完結しがちです。しかし、その理解は、お門違いかもしれないわけです。 カーネマンらは、組織におけるこうした深刻な問題をまずエッジの効いた例証を通して指摘し、その処方箋についても丁寧に示してくれています。 ですので、特に人事担当者、マネジメント、プロジェクトリーダーの方々には、見逃せない一冊です。人間が人間を評価することの危険性、未来の公平性を強化する必要性について見なおすきっかけになることは間違いありません。 じゃあ、AIでの評価を徹底していけばいいとお思いの方もいらっしゃると思いますが、確かにアルゴリズムには、noiseはありません。しかしながら、バイアスはあるので100%の精度は達成できません。それに加えて、人間とは、精度の問題はさておき、自分で意思決定するのが好きなのです。この辺のところについても、分かりやすく解説してくれています。 ところで、この本のレビューを見ると、2つ星をつけていた方がいらっしゃるのです。 自分の中では近年の名著ベスト5に入るレベルなので、「いったいなぜ?」と探ってみると、この方の評価は、ほとんどすべてが2つ星とか1つ星なんです。常に辛口評価という個性をお待ちで、5つ星をもちろん、4つ星も、3つ星もつけないわけです。…

キーウの美しい聖ソフィア大聖堂

ロシアによるウクライナ侵攻は、相変わらず予断を許さない状況が続いています。 現時点(2022.3.3)ですが、首都キエフ近くをロシア軍が約65キロに渡って車列を作り、いつでもキーウを包囲できる状態が報道されています。また、米国国防総省は、5日以内に陥落すると予想しています。 キーウと言えば、その中心に世界遺産「聖ソフィア大聖堂と関連する修道院」があります。 (郊外にあるキーウ・ペチェールシク大修道院も一緒に世界遺産として認定されています) プーチン大統領は、ロシア正教信者で、彼がこれまでに自ら語った信仰心から推察すると、あえて大聖堂を標的にすることはないと信じたいです。しかし、戦闘が激化すれば被害があることが危ぶまれます。 キーウ市街で正面にそびえる聖ソフィア大聖堂 Photo: wikimedia 聖ソフィア大聖堂 聖ソフィア大聖堂と関連する修道院群、キーウ  Photo: wikipedia この大聖堂は、約20年の歳月をかけて、1037年に完成しました。キーウ大公国のウラジミール1世(1015年死没)が計画し、その息子ヤロスラフ賢公(978-1054)によって施工されました。 5世紀半ばの西ローマ帝国消滅によって、キリスト教の中心は、東ローマ帝国の首都ビザンティウム(コンスタンティノープル)に移り、その東方正教会がキリスト教とその美術にとっての強力な支援者を継ぎました。 ウラジミール1世が、そうした東方正教を国教として受け入れ、彼自身も洗礼したのは988年のことです。その後、ビザンティウムの建築家や芸術家を雇い入れ、キリスト正教会大聖堂であったアヤ・ソフィア(現在はイスラム教ムスク)のような建設を目指したのです。 しかし、鋭い方はお気づきになったのではないでしょうか。 ビザンティン建築の傑作であるアヤ・ソフィアと比較すると、様式が異なるじゃないかと。実際に次の写真と比較していただくとその大きな違いを確認していただけます。 アヤ・ソフィア、イスタンブール photo: wikipedia その理由は、17〜18世紀に聖ソフィア大聖堂は大増改築されておりまして、特に上部の部分が「ウクライナ・バロック」と呼ばれる独自なスタイルになったからです。 聖ソフィア大聖堂のアート 建物の時代は下りますが、内部は、11世紀ビザンティンスタイルのフレスコとモザイク画がそのまま保存されています。 金地に、聖者たちのイコンが所狭しと埋め尽くされています。聖者たちの数は、800以上と言われていますが、これだけ多く描かれている例は他には存在しません。 聖ソフィア大聖堂、祭壇周辺、11世紀前半, Photo: wikipedia 『祈りを捧げる聖母』、モザイク、聖ソフィア大聖堂、中央後陣のドーム部分、高さ約6m、11世紀前半, Photo: wikipedia 中央後陣に最も大きく描かれているのは、聖母マリアです。…

もう止められない!NFTアートの波

エルミタージュ美術館所蔵のレオナルド・ダ・ヴィンチ『リッタの聖母』もNTF (非代替性トークン) アートになりました。昨年8月、他の名画4点と合わせて44万500ドル(約4850万円)で売られました。 ダヴィンチ研究所としては、この大ブームになっているNTFアートを考察してみることにしました。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『リッタの聖母』、1490年頃、テンペラ、キャンバス、42 cm × 33 cm、エルミタージュ美術館 NTFアートの起爆剤 NTFアートに火をつけたのは、2021年3月クリスティーズのオンラインオークションにて、グラフィックデザイナーである Beeple ビープル(Mike Winkelmann マイク・ウィンケルマン) の『Everydays: the First 5000 Days』が、約6935万ドル(約75億円)で落札されたことに始まります。 ビープル、『Everyday: The First 5000 Days』, 21,069 × 21,069 ピクセル、所有者Vignesh Sundaresan、Photo: Wikipedia Beepleビープルこと、Mike Winkelmann…

2022年は、見逃せない美術展だらけでどうします?

新年あけましておめでとうございます。 今年もダヴィンチ研究所をどうぞよろしくお願いいたします。 新年のイベントのひとつとして、公益財団法人関西生産性本部主催でオンラインセミナー「知覚力を磨く―知覚で不透明な世界を切り拓く」が開催されます。お目にかかれますことを楽しみにしております! ところで、年明けからそわそわしております。なぜってコロナはどこ吹く風、2022年の美術展は熱い企画が目白押しなのです。 もしも自家用ジェットを持っていたならば、いますぐロンドンに、3月はフィレンツェに間違いなく飛びます。 世界で開催されるイチオシ美術展を、時系列でご紹介してまいりましょう。 Dürer's Journey: Travels of A Renaissance Artist(デューラーの旅:ルネッサンス芸術家の旅行) ナショナルギャラリー、ロンドンにて、2022年2月27日まで開催 アルブレヒト・デューラー、『アダムとイヴ』、1504、エングレービング、26.5cmX20.9cm、アムステルダム国立美術館  久々の大規模なアルブレヒト・デューラー 展です。絵画、ドローイング、版画、手紙を展示しながら、ヨーローッパ中を旅した彼の軌跡を追います。 デューラーと言えば、やっぱりエングレービングです。その神業は、後世のアーティストたちに多大なる影響を与え続けてきました。その中でも状態が良い作品は非常に希少ですから、それらが一同に会して比較できる機会は貴重この上ありません。 デューラーの エングレービングの魅力 については、別エントリーで詳しく書いております。 フェルメールと17世紀オランダ絵画展 東京都美術館にて、2022年1月22日〜 2022年4月3日 フェルメール展と言っても、彼の作品は1点だけで、他を埋め尽くすのは、17世紀オランダ絵画作品ということはご理解の上で足を運んでくださいね。 とは言うものの、たった34しかないフェルメール作品の1点1点を着実に脳に刻み付けたいファンも大勢いらっしゃるでしょう。 今回のハイライトである1点は、2019年修復後、世界初公開(所蔵美術館であるドレスデン国立古典絵画館以外では)となる『窓辺で手紙を読む女』です。 フェルメールの意図に反して、厚い釉の下で眠っていたキューピッドが修復によって遂にお目見えしました。それを確かめるだけの目的に行っても、十分過ぎる価値がある展覧会でしょう。 ヨハネス・フェルメール、2019年修復前『窓辺で手紙を読む女』、1657-1659, 油彩、キャンバス、83…

イーロン・マスクの「眼」は何を観ているのか

Photo: wallpaper-mania.com よくいただく質問 よくいただく質問に、次があります。 「じっくり観察する暇はないです。時間をかけて観ることは、今のスピーディーな時代に逆行しているのではないですか?」 そう感じられるのは、もっともかもしれません。 検索ですぐに答えが見つかる時代に、観ることに時間を取るなんてもったいない!と思いがちです。 でも実際のところ、表面的に見ただけで、他人が発見できないような核心を見つけたり、成功したり、イノベーションを起こしたりしたという上手い話はほとんどないです。 この点は、昔も、この現代もまったく同じです。 成功者はやはりよく観ている 『 知覚力を磨く 』でも、絵画を観るように世界を見ている成功者たちの例について、ダ・ヴィンチから、アインシュタイン、黒澤明監督、柳井正さんまで大勢挙げました。加えて、ごく周りの人々を参考にしても、切れ者はやっぱり`世界をよく観ていますね。専門分野に固執することなく、広く観ていているのが特徴です。 ひとつ大事なポイントは、彼らは観ようと意気込んでいるわけではなく、観ることが習慣になっていて、ただ地道によく観ることを継続しているようです。その上で、判断や行動がスピーディーに行われています。 観たものやそれに対する自分の解釈が知識として脳に蓄積されていくと同時に、視覚的刺激が好奇心が突き動かして「思考」へと無理なく導いてくれます。 未来を観ているだけではない さて、今年11月に世界一の億万長者になったイーロン・マスクですが、彼に対してどんな印象をお持ちでしょうか。 テスラ社やスペースX社といった未来の先駆けとなるようなビジョナリーな企業のCEOとして、未来を常に追いかけているような、細かいことをすっ飛ばして大きなことだけ夢見ているような印象を与えがちではないでしょうか。 ところが、彼も成功者として例外ではなく、「詳細を観ること」の価値を重視しているひとりです。 Photo: thenextweb.com 誰を雇用するのか イーロン・マスク は、スペースX社の採用面接を自分で行っています。 いつも次の質問をするそうです。そうすると、「自分が欲しい人材かどうか」がだいたい分かると言います。 ■自分の人生の転機で、どんな決断をなぜ行ったか。 ■これまで直面した最も困難なことは何で、いかに解決したか。 マスクは、これらの質問をする理由について次のように説明しています。 「本当に意思決定したり、問題解決したりして、そのノウハウを学んだ人は、その時の細かな詳細についてちゃんと知っています。ところが、フリをしている人は、一つのレベルにとどまってしまって行き詰まるのです。そういう人に詳細を尋ねても、答えることはできません。」 あっ、そう言えば、アリストテレスも似たようなことを言ってましたっけ。本物の知恵は、古代から、現代まで延々と突き抜けます。…