ゴッホを深く学べる2023年

ヨハネス・フェルメール展が、アムステルダム国立美術館にて史上最大規模で進行している話はすでに取り上げました。※そ、そういえばフェルメールの新たな大発見がありましたね!近日中に追記します。

ところで、2023年はさらにすごい!

フィンセント・ファン・ゴッホ(1852-1890)がお好きな方にはたまらないニッチな企画が続々と開催されますので概要をまとめておきましょう。


ファン・ゴッホの最晩年70日間に注目した展覧会

■”Van Gogh in Auvers-sur-Oise” (オーヴェル=シュル=オワーズのファン・ゴッホ)

ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム 2023年 5月12日ー9月3日

オルセー美術館、パリ、2023年10月3日ー2024年2月4日


フィンセント・ファン・ゴッホ、『たそがれの景色』、1890、油彩、キャンバス、50 X 107 cm、ファン・ゴッホ美術館 Photo: wikipedia

パリから北西に30キロほど程離れた村、オーヴェル=シュル=オワーズで過ごした最晩年70日間(1890年5月20 ー7月29日)にスポットライトを当てた展覧会です。療養所を退所してから、ピストル自殺を図り亡くなるまでの期間となります。

この時期のファン・ゴッホは非常に多作で、約70作品を制作しており、その中にはいくつもの傑作が含まれています。この展覧会では、なんと48点が出品されます。

ポール・セザンヌやカミーユ・ピサロなど他の画家たちにも愛されたオーヴェル=シュル=オワーズの景観をリズミカルで確かな筆致で描き、多彩な色・透明な空気・暖かな光までも感じることができ、ため息が出るほどに美しい作品を残しています。


フィンセント・ファン・ゴッホ、『雷雲の下の麦畑』、1890、油彩、50.4X101.3cm、ファン・ゴッホ美術館 Photo: wikipedia

見た瞬間に、彼が印象派からの影響を強く受けていたことを改めて確認できる作品ですね。にもかかわらず、地面と空だけを、珍しい横長のフォーマットでシンプルに描くところに彼のユニークな意図と時代の先を行く感性を感じます。

もう一点、亡くなるわずかひと月前に描かれた傑作も見ておきましょう。


フィンセント・ファン・ゴッホ、『オーヴェルの教会』、1890年6月、油彩、94X74cm、オルセー美術館 Photo: wikipedia

1883年から1885年に両親と一緒に住んでいたヌエネン(オランダ南部ですが、ファン・ゴッホの人生からすると北のイメージ)の日々に思いを馳せたノスタルジックな作品です。とは言え、当時の作風とは全く異なる豊かで鮮やかな色調が選ばれています。

ファン・ゴッホの名声は、彼の死の前後からゆっくりと高まってきます。しかしながら、印象派が脚光を浴びていた当時、売れたのは作品の中でも印象派寄りの作品でした。この作品は前衛的すぎたためかすぐに売れませんでした。

美と斬新性、悲哀や孤独感というファン・ゴッホが一生涯抱えた課題が、70日間という短期間で別次元で醸成されたことを確認できる貴重な展覧会です。


前衛性を追求した軌跡にフォーカスした展覧会

“Van Gogh and the Avant-garde: The Modern Landscape” (ファンゴッホと前衛派たち:近代風景画)”

シカゴ美術館、シカゴ 2023年 5月14日ー9月4日

“Van Gogh along the Seine (セーヌ川沿いのファン・ゴッホ)

ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム、2023年10月13日ー2024年1月4日


フィンセント・ファン・ゴッホ、『アニエールのリスパルレストラン』、1887、油彩、キャンバス、73.33 x 60.02 cm、ネルソン・アトキンズ美術館 Photo: wikipedia

1880-1890年の期間、ファン・ゴッホを含む5人のアーティスト(ジョルジュ・スーラ, ポール・シニャック, エミール・ベルーナード、シャルル・アングラン)は、パリ中心から北西約8kmに位置するアニエール=シュル=セーヌを訪れ、新たな絵画手法の開拓に臨んでいました。

「いったいどんな手法で、いかなる影響をお互いに与えあったのか」の軌跡が追える展覧会です。ファン・ゴッホが、他の4人から驚くほど多くの物(点描法、分割法、クロイゾニズム)を吸収しながら進化していく様子が確認できます。

次の2作品を比較してみると、展覧会の主旨を垣間見ていただけるでしょう。


ジョルジュ・スーラ、『アニエールの水浴の最後の習作』15.8 × 25.1 cm、油彩、パネル、シカゴ美術館 Photo: Art Institute of Chicago

フィンセント・ファン・ゴッホ、『春の釣り、クリシー橋』、1887、油彩、キャンバス、50.5 × 60 cm、シカゴ美術館 Photo: Art Institute of Chicago

陳列作品は75作品で、そのうちファン・ゴッホ作品は25点となります。学びが多い濃密な展覧会になることは間違いありません。さすがシカゴ美術館!理論好きな土地柄を反映しています。


糸杉について解きほぐす展覧会

“Van Gogh’s Cypresses”(ファン・ゴッホの糸杉)

メトロポリタン美術館、ニューヨーク、2023年5月22日-8月27日

最後は、なんと「木」にファーカスした初めての美術展です。

ファン・ゴッホは、サン=レミの精神病療養所で描いた傑作2点『糸杉のある麦畑』(3バージョンあり)と『星月夜』に、空に向かって聳え立つ、高く暗い糸杉を濃い絵の具で力強く描いています。まさにゴッホのアイコンとさえ言えます。


フィンセント・ファン・ゴッホ、『糸杉のある麦畑』、1889年6月、油彩、キャンバス、73.2 × 93.4 cm、メトロポリタン美術館、ニューヨーク

フィンセント・ファン・ゴッホ、『星月夜』、1889年6月、油彩、キャンバス、73 × 92 cm、ニューヨーク近代美術館 Photo: wikipedia

ファンゴッホが、療養所で何を観てなにを考えていたのか?なぜ糸杉を象徴的に描いたのか?どうして数日を隔てて2枚の絵に糸杉を繰り返したのか?

シンボリックな糸杉の意味を追求することは、ファン・ゴッホの精神状態、傑作誕生の裏話まで知ることなのです。絵画、ドローイング40作品に加え、手紙なども出品されるとのことです。


静物画の進化をたどる展覧会

■「ゴッホと静物画 伝統から革新へ

SOMPO美術館 2023年10月17日―2024年1月21日


フィンセント・ファン・ゴッホ、『ひまわり』、100 x 76cm、SOMPO美術館 Photo: Wikipedia

欧米への航空運賃が高額な今日、身近で楽しめる良質な展覧会は本当に貴重です。

この展覧会は、彼の静物画約20作品を中心にファン・ゴッホが先人から学んだ伝統と、後世へ残した革新を考えます。ウェブ上の情報はまだ少ないですが、SOMPO美術館所蔵『ひまわり』を、他の画家の『ひまわり』と比較できる稀有なチャンスを与えてくれるとのことですので非常に楽しみです!

2023年は、ファン・ゴッホ通になるための年と言っても過言ではありません。ご旅行やご出張で近隣にお出かけの方は、是非ともお見逃しなく!