アート… ファン・ゴッホの最後の70日 10/29/2026 上野の森美術館で、シンシナティ美術館展──アメリカに渡ったヨーロッパの至宝(10月10日~2027年1月10日)が開催されています。シンシナティ美術館改築に合わせての来日で、富山・名古屋・大阪と巡回します。 目玉となっているのは、ファン・ゴッホ作『ポプラの林の中の二人』です。 本作は、ファン・ゴッホが死までの最晩年、 パリの北西へ約27kmの農村オーヴェル=シュル=オワーズのラヴー旅館2階の5号室に滞在(1890年5月-7月)していたときに制作された1点です。 ファン・ゴッホが最晩年を過ごしたラヴ―旅館5号室 実はこの『ポプラの林の中の二人』ですが、この時期の特徴を最もよく体現した重要作品のひとつです。 今回は、この『ポプラの林の中の二人』を入り口として、ファン・ゴッホの最後の70日間を概観しましょう。 『ポプラの林の中の二人』 フィンセント・ファン・ゴッホ『ポプラの林の中の二人』、1890年6月、50 X 100.5 cm、油彩、キャンバス、シンシナティ美術館 Photo:Wikipedia 本作品は、オーヴェルで描かれた76作品の中の1点です。1890年6月末頃に完成していたと考えられています。 ひと目でオーヴェル期の作品であることがわかります。なぜでしょうか。 それは、横長のパノラマ用キャンバス(No. 30)です。これまで使用したことがなかったキャンバスに初めて挑戦したからです。縦は50cmしかないにもかかわらず、垂直のポプラの列とその配置によってものすごく奥行が深く見せているのはみごとですね。 横長なキャンバスを使った理由ですが、そのひとつは、バルビゾン派の中心画家で、晩年オーヴェルに住んでいたシャルル=フランソワ・ドービニー(1817-1878)へのオマージュだと言われています。ドービニーの作品はこのセクションの最後に挙げますが、横長キャンバスを多用した画家です。 『ポプラの林の中の二人』は奥行と横の広がりの中央に、ドレスアップした男女のカップルが立つ構図です。でも、ファン・ゴッホにとってこの絵の主人公は彼らではなく、紫色のポプラの幹とその下で黄・白・オレンジの花をつける柔らかな緑の草原です。 というのも、ファン・ゴッホは、弟テオへの2通の手紙の中でこの絵について書いています。キャンバスと色彩については語っている一方で、カップルについてはまったく触れてないのです。 ところでキャンバスのサイズ以外に、この時期の特徴は何でしょうか。 これまでの金色の光の暖かさではなく、銀色の光の静けさが感じられます。黄色やオレンジを大胆に使わなくなり、ブルー・グリーン・紫が画面を支配するようになります。筆致が短く速く、絵具が薄塗りになります。 森というシンプルな主題ですが、色彩・構図・筆触が作り出す幻想的な気配に引き込まれてしまう作品です。 では、横長キャンバスを多用したドービニーの作品を挙げましょう。ファン・ゴッホは、次のドービニー作『春の風景』を見ていてインスパイアされている可能性が高いです。 シャルル=フランソワ・ドービニー『春の風景』、1862年、133 X 240 cm、油彩、キャンバス、ベルリン旧国立美術館 Photo:Wikipedia 日本で観られるオーヴェル期の2作品 日本国内で観られるオーヴェル期の作品は、2点あります。その他に非公開のプライベートコレクション1点があります。 オーヴェル期を理解するために貴重ですので、確認しておきましょう。 ポーラ美術館蔵『アザミの花』…