クリスティーズでの夢のようなオークションとその結果

コロナ禍による経済的ダメージは、世界中の美術館を襲っています。 スタッフ解雇という暗いニュースが出る一方、ルーブル美術館の資金集めの方法には脱帽です。クリエイティビティは、ギリギリの苦境を救うのです。 ルーブル美術館、パリ ところで、ルーブルはどんな方法で資金集めをしようとしているのでしょうか? クリスティーズに、他では絶対に入手できない、ルーブルならではの一品をオークションに出しています。その中でも、とりわけ魅力的な3つをご紹介しましょう。 Lot 9:『モナ・リザ』をじっくり観られる あの『モナ・リザ』をケースから出してプライベートで観察できるというまたとない機会です。そもそもいつもケースに入っていますし、いつも人だかりができているため、ほとんど観ることが不可能な名画と言えるでしょう。 それも、ルーブル美術館館長であるジャン=リュック・マルティネズと一緒です。落札者は、同行者を連れていっても良いそうです。フランス語ができれば、なお楽しそうです。 本日12月7日時点で、1万ユーロ(日本円約126万円)となっています。 その結果ですが、日本円約1008万円で落札されました。(追記) レオナルド・ダ・ヴィンチ、『モナ・リザ』、1503〜1507, 1517 Lot 6: 好きな絵の時計を作ってくれる なんと、スイスの高級時計メーカー、ヴァシュロン・コンスタンタンが、ルーブル美術館所蔵の好きな絵で世界で一点ものの時計を完全オリジナルで作成してくれます。 絵画好き、時計好きにはたまらないチャンスに違いありません。 本日12月7日時点で、11万ユーロ(日本円約1386万円)と人気です。 その結果ですが、日本円約3528万円で落札されました。(追記) www.vacheron-constantin.comより Lot 7: カリアティード広間でプライベートコンサート  ギリシャ・ローマ彫刻が並ぶカリアティード広間で、あなたと同行者だけのためにコンサートを開催してくれます。 この広間は、かつてフランス国王のレセプション広間として使用されていた場所です。年末年始に、格調高い雰囲気を約束してくれることは確実ですね。 本日12月7日時点で、9000ユーロ(日本円約 113万円)となっています。 こちらの落札額は、日本円約530万円でした。(追記) 他にもパリ、ランス、アブダビにある3つのルーブル美術館を巡るプライベートツアーなど、まさに一生の一度の機会がいろいろと出品されています。 ゴージャスな経験と資金調達の一石二鳥。どんな高値で落札されるのかが楽しみです!

『最後の晩餐』は、なぜ革新的なのか?

レオナルド・ダ・ヴィンチ、『最後の晩餐』、1496〜1498年頃、459.7 X 880.1 cm、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ、ミラノ パロディとしても登場するほど、有名で親しみのある『最後の晩餐』です。しかし、「その革新性は何なのか」については、意外にもあいまいに濁しているのではないでしょうか。 『最後の晩餐』のパロディの一例  bitrebels.comより CR: Unknown artist というわけで、『最後の晩餐』の革新性について考えてみましょう。 作品の概要 どこにあるのか? 『最後の晩餐』は、イタリア、ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会(英語では、Church of Holy Mary of Grace)の北側つきあたりの食堂の壁に描かれています。 この教会の東側のドームと本堂と袖廊のクロス部分は、ルネッサンス建築家ドナト・ブラマンテ(1444〜1514)が設計しています。この教会は現在、世界遺産にも登録されています。ミラノを訪れたら、必見の美しいサイトです。 サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会、ミラノ Photo:Marcin Białek レオナルド・ダ・ヴィンチ、『最後の晩餐』、1496〜1498年頃、459.7 X 880.1 cm、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ、ミラノ Photo: Joyofmuseums (3 January…

書籍『知覚力を磨く』が出版されます

『知覚力を磨く―絵画を観察するように世界を見る技法』(ダイヤモンド社刊)が、2020年10月21日に全国書店で発売されます。なんと、すでに予約もできます。 この曖昧な世界は、思考力だけでは太刀打ちできません。「思考力以前」の「知覚力」が重要になります。 なぜなら、「何に目を向けて、いかに解釈するか」という部分が、データ予測から、問題解決、意思決定、知的生産まで大きな価値を持つからです。 本書は、「どのように見ればいいのか」「目のつけどころはどこなのか」の方法について解き明かす一冊です。イェール大学で始まり、全米100校以上で採用された絵画を使った知覚力を鍛えるトレーニングもご紹介しています。 そして、絵画を観察するように世界を見ている人々には、成功者が多いというのも事実です。レオナルド・ダ・ヴィンチから、アルベルト・アインシュタイン、黒澤明、ピーター・ドラッカー、ウォーレン・バフェット、柳井正、トニー・シェイ、スティーブ・ジョブズなどまで切りがありません。 よりクリアな目で、感動とチャンスに満ちた世界を見渡すために、知覚力を磨いてみませんか? そのノウハウは、『知覚力を磨く:絵画を観察するように世界を見る技法』でご覧ください。

大規模なアルテミジア・ジェンティレスキ展がいよいよ開幕

イタリアバロック女性画家であるアルテミジア・ジェンティレスキ(1593〜1652)の展覧会が、ロンドンナショナルギャラリーで開催(2020年10月3日〜 2021年1月24日)されます。 男性ばかりの17世紀のアート界で、女性として初めてフィレンツェの美術アカデミーの会員と認められ、国際的に名をとどらかせ、しかも権力あるパトロンたち(トスカーナ大公コジモ2世、イギリス国王チャールズ1世、スペイン国王フィリップ4世など)に支持されていた才能溢れる画家です。 また、女性として生きにくかった時代で、彼女の魂の叫びが作品に込められていて心を動かします。 アルテミジア・ジェンティレスキ、『アレキサンドリアの聖カタリナとしての自画像』、1616年頃、油彩、キャンバス、71.5 cm X 71 cm、ナショナルギャラリー、ロンドン ジェンティレスキの生涯 生い立ち アルテミジアは、画家であった父親オラツィオ・ジェンティレスの長女(5人兄弟の最年長)としてローマに生まれました。カラヴァッジオのスタイルを踏襲していた父親の下、彼女は、その多大な影響を受けながら、他の兄弟たちよりも優れた才能を発揮していきます。 最も初期の作品は、『スザンナと長老たち』です。アルテミジアが、17歳の時の作品です。構図が、とても新鮮なことがまず目をとらえます。 アルテミジア・ジェンティレスキ、『スザンナと長老たち』、1610年頃、油彩、キャンバス、170 cm × 119 cm、シュロスヴァイセンシュタイン城、ポンマースフェルデン、ドイツ レイプ事件 わずか一年後の1611年、彼女が18歳の時、画家アゴスティーノ・タッシに強姦されてしまいます。父親とよく仕事をしていたタッシは、アルテミジアに遠近法を教えるように頼まれたと言います。 詳細な裁判記録が残されており、アルテミジアの冷静で勇敢、説得力ある陳述に驚かされます。結果、タッシには有罪判決が下り、ローマから追放されることになります。 そして裁判の翌年、アルテミジアは、父親の配慮により、知名度の低い画家と結婚し、フィレンツェへと移り住みます。 その後 フィレンツェ(1612〜1620)では、5人の子供を授かり家族生活が充実したことに加え、画家としてもコジモ2世の支援に恵まれ、宮廷画家として成功しました。 約7年の滞在をフィレンツェを経て、ローマに戻り(1620〜1626)、さらにベニス(1626〜1630)、ナポリ(1630〜1652)と過ごします。ナポリ滞在中は、チャールズ1世の招待を受けてロンドン(1638〜1641)も訪れています。 彼女の傑作2点は、ローマに戻った時に生まれています。 アルテミジア・ジェンティレスキ、『ホロフェルネスの首を斬るユディト』、1614〜1620年頃、油彩、キャンバス、199 cm X 162.5 cm、ウフィツィ美術館 アルテミジアは、『ホロフェルネスの首を斬るユディト』を2点制作しています。最初のバージョンは、1612年頃完成しています。この2つめのバージョンは、フィレンツェ滞在中に着手し始め、ローマに戻ってから完成しています。 その裏には、同じ題材で描かれたカラヴァッジオの影響があったことは否定できないでしょう。比較してみると、面白いです。…

[オークション結果]アルブレヒト・デューラーの版画

今回のクリスティーズ、ロンドンでのオークション「オールドマスターズプリント」の動きは、非常に興味深かったです。 「コロナの影響が、何百万円代のアート市場にどう出るのか?」 にも興味がありましたが、最も高値が予想されていたデューラーの『メランコリアI』は撤退となり、注目されていた他の3点のうち2点には、最後の最後までビッターが現れなかったからです。 このまま見送られてしまうのかと思いきや、やっぱりデューラーの根強いファンがこの機会を見逃すわけはありません。ギリギリで勝負に出て来て、見積もり額の範囲以内で獲得していきました。 では、注目の版画の結果を見ておきましょう。なお、オークションに出品された版画そのもののサイズ、質を確認したい方は、クリスティーズサイトをご覧ください。ここでは、メトロポリタン美術館所蔵の画像でご紹介しています。 アルブレヒト・デューラー、『聖大アントニオスの読書』、1519、9.8 × 14.3 cm、エングレービング、メトロポリタン美術館 デューラー晩年期の傑作のひとつです。デューラーには珍しい横長のフォーマットです。キューブが集まった町の景観と、身体を丸めて熱心に読書する聖アントニオを対比させる構図が秀逸です。 聖大アントニオス(250〜350年頃)は、キリスト教最初の修道士であり、修道士生活を広めた人物です。彼を主題とした絵と言えば、彼のエジプトの砂漠での修行中に悪魔に誘惑されるシーンが一般的です。 ということは、このデューラーの版画は当時、聖大アントニオスの新鮮な側面をとらえた作品として話題になったことは間違いありません。 落札額は、3万5000ドル(日本円約375万円)でした。 アルブレヒト・デューラー、『書斎の聖ヒエロニムス』、1514、24.6 x 18.9 cm、エングレービング、メトロポリタン美術館 デューラーの円熟期の傑作3作―『書斎の聖ヒエロニムス』、『メランコリア I』『騎士、死、悪魔 I』―の中の1作です。しかしその中でも当時最高に人気があったのが、この作品であったことをデューラーは日記に書いています。 聖ヒエロニムスの「ヘブライ語やギリシャ語の研究者としての側面」をとらえた作品です。彼のイコノグラフィー(ライオン、十字架上のキリスト、枢機卿の帽子、骸骨)がバランスよく配されています。ステンドグラスから差し込む光とその影の描写も見事としか言いようがありません。 落札額は、6万2500ドル(日本円にして約669万円)でした。 アルブレヒト・デューラー、『聖エウスタキウス』、1501年頃、35 × 25.9 cm、エングレービング、メトロポリタン美術館 デューラーのエングレービングの中では、最大の大きさです。デューラーはまだ30歳で、ちょうど実力が開花し始めた頃の作品です。動物の描写が息を呑むような精密さであることにお気づきいただけるでしょう。 その内容は、ローマ帝国トラキヤス帝の将軍プラキドゥス(聖エウスタキウスの洗礼前の名前)のキリスト教への改宗の瞬間です。狩猟に出たプラキドゥスは、牡鹿(右奥)の角の間に十字架上のキリストの幻想を見ると同時に、神の声に導かれて家族と一緒に洗礼を受けることになります。名前もエウスタキウスと改名されます。 今回のオークションに出品された『聖エウスタキウス』は、「ハイクラウン」と呼ばれる透かしが入った1480〜1525年に使用されていた紙が使用されていました。 アルブレヒト・デューラーのエングレービングと木版画に1480〜1525年に使用されていた紙の透かし「ハイクラウン」CR:…

[オークション終了]アルブレヒト・デューラーの版画

今、ちょうどアルブレヒト・デューラー版画作品のオークションが、クリスティーズ、ロンドンで開催されていますので、その素晴らしさに触れておきたいと思います。 ダ・ヴィンチやラファエロといったルネッサンス絵画がとんでもない高額なのに比べて、デューラーの版画であれば、何十万円単位の作品もあり、購入を検討できるという楽しみもあります。 アルブレヒト・デューラーについて アルブレヒト・デューラー、『自画像』、1498 年(26歳)、プラド美術館 アルブレヒト・デューラー(1471〜1528)は、ドイツ、ニュルンベルク出身の画家、版画家、科学者、人道主義者です。 イタリアへの旅を通じて、アンドレア・マンテーニャ(1431〜1506)やジョヴァンニ・ベッリーニ(1430〜1516)の影響を受け、ルネッサンスをドイツへ持ち込むとともに、イタリアでも高い評価を得ています。北ヨーロッパのレオナルド・ダ・ヴィンチか、ラファエロかと言ってもいいかもしれません。 デューラーは、画家としても優れていましたが、彼が追随を許さない圧倒的な才能を開花させたのは、何と言っても版画です。 デューラーの父は、ハンガリーから移住した熟練した金細工師で、その18人の子供のひとりとして生まれました。彼の祖父も、金細工師から、印刷業、出版業へと成功しています。 その恵まれた遺伝子と環境を開花させたのは、彼がわずか13歳の時でした。その確かな腕で彫られた線描には驚嘆するしかありません。 アルブレヒト・デューラー、『自画像』、1484 年(13歳)シルバーポイント(銀尖筆)、アルベルティーナ美術館、ウィーン デューラーの出世作 デューラーの出世作は、木版画シリーズ『黙示録』です。 黙示録とは、1世紀後半に新約聖書の最後にあるヨハネが書いた聖典です。彼がパトモス島で見た世界の終末、人類の運命についての啓示を記しています。 15世紀末のドイツは、伝染病、農民一揆、宗教的対立など不穏な空気に包まれていたため、デューラーの『黙示録』は多くの人々の心をつかみました。 15シートから成る『黙示録』の4番目で、最も有名なのが『四人の騎手(四騎士とも)』です。2019年1月クリスティーズのオークションで、 61万2,500ドル(日本円で約6615万円)で取引されています。 アルブレヒト・デューラー、『四人の騎手』、黙示録シリーズより、1498 年、397×286 mm、木版画、メトロポリタン美術館、ニューヨーク 四騎手は、キリストが封印した7つのうち、4つを解いた時に召集され、剣、飢饉、野獣、伝染病をもたらす最後の審判への前兆です。 木版画とは信じられない流麗な線に魅了されます。それぞれの人物の表情の豊かさにもご注目ください。モノトーンな版画にもかかわらず、色がついているかのように多様な線で楽しませてくれるのが、版画の魅力です。 円熟期の始まり 木版画シリーズ『黙示録』から数年後、デューラーは、理想的な人間のプロポーションを彫れる技術を習得したことを証明します。 アルブレヒト・デューラー、『アダムとイヴ』、1504 年、251 x 200 mm、エングレービング、メトロポリタン美術館、ニューヨーク デューラーは、ダ・ヴィンチと同様に、人間のプロポーションについて熱心に研究していました。…

相次ぐ絵画修復ミスが痛い

美術館で働いていた頃、修復室は神聖な領域のように感じました。 バルトロメ・エステバン・ムリーリョ、『無原罪懐胎』、1660 〜 1665年、206 X 144 cm、プラド美術品 なぜなら、世界に一点しか存在しない美術品、時には神の化身のような作品に触れていくからです。 現実的にも、修復室はいつもきちんと整理整頓されていて、修復士は静寂の中で、絵画の1平方センチあたりに長い時間をかけて加筆していました。 何十年の経験があったとしても、決して王道があるわけではなく、個々の作品の状態を鋭い観察眼で観ながら判断しなければならない緻密な作業です。 上のバロック画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作『無原罪懐胎』の複製画は、スペインで家具修復士の手を経て、その聖母マリアの顔は無残な状態になってしまいました。費用は、1200ユーロ(約14万5千円)でした。 バルトロメ・エステバン・ムリーリョ、『無原罪懐胎』複製画の修復 (c)Europa Press もう元には戻せないほどに、完全に別物です。 修復歴30年のキャリアを持ち、16〜20世紀絵画保存に関わってきたリサ・ローゼンは、次のように話します。 「歯の治療に木工所に行ったのと同じ…でも修復士の気持ちは分かるわ。もう少し、もうちょっとと思いながら、やり過ぎてしまった」 「修復士は原画の筆使いを一筆一筆真似なければならないの。自我は忘れなければならない」 スペインだけではなく、日本でもある有名な鎌倉時代の絵が激変してしまったことが話題になったことがあります。その絵も、やり過ぎたようで、ベタっとした厚塗りになっていました。 いかに自我を押さえるか。修復の仕事は奥が深いことこの上ないです。

アートが観たい気持ち どうする?

アートを観るための空間は、三密を作りやすい。というわけで、以前のように美術館・アートフェア・オークションに気軽に立ち寄れるようになるにはしばらく時間がかかりそうです。 そんな中、コロナにプッシュされて、アートのデジタル化が眼を見張るほど急速に進んでいるのも事実です。その一部をご紹介しましょう。 Google Arts and Culture すでにご存じの方も多いと思いますが、世界の美術館を覗けるツアーから、名画のクロースアップ、美術展ツアーまで高解像度の美しい画像で楽しめます。あっという間に時間が過ぎてしまいますのでご注意を。それに毎週、新しいトピックで更新されているので飽きません。 個人的に気に入っているのは、Art Cameraです。ピーター・ブリューゲル・エルダー 作『バベルの塔』の精密な画像の中にズームインし、絵の中の世界に入ったかのような体験できます。 ピーター・ブリューゲル・エルダー 、『バベルの塔』、1563年頃、ウィーン美術史美術館 CR: Google Arts and Culture ホイットニー美術館 現時点で最もデジタル化が進んでいる美術館のひとつが、ホイットニー美術館です。美術展から、映画、教育プログラムまで完全にオンラインで参加できるようになっているところが素晴らしい!美術展カタログまで、世界中のどこにいても閲覧できます。 オックスフォード現代美術館 コロナでキャンセルとなった美術展は、いち早くバーチャルリアリティによる展覧会に変更されています。実際に美術展を訪れたように、観覧順路を辿ることができます。 現在公開中なのは、アメリカ人アーティストであるキキ・スミスのタペストリーを展示した"I am a Wanderer (私はさすらい人)"です。 CR: Art Modern Oxford…

ゴッホ絵画盗難のなぞ

『春のヌエネンの牧師館の庭』Photo by HANDOUT/Marten de Leeuw/EPA-EFE/Shutterstock (10597392a). 2020年3月30日、フィンセント・ファン・ゴッホ(1852-1890) の167回目の誕生日の午前3:15頃にその事件は起こりました。 オランダ北部、ラーレンにあるシンガー・ラーレン美術館から、『春のヌエネンの牧師館の庭』(1884年作)が盗まれました。 オランダ国内のコロナ感染拡大を受け、美術館は3月12日から休館中でした。人々がコロナへの懸念に心奪われている隙を狙い、しかも玄関のガラス製ドアを破って侵入するという大胆な犯行でした。 シンガー・ラーレン美術館 ところで、絵画の盗難は繰り返されます。犯人像は、ほぼ3通りしかありません。 その特定の絵画が好きで盗む素人その特定の絵画が欲しい人から依頼されたプロお金儲け目的で盗むプロ・素人 ただ3つめは、有名な絵画を換金すれば足がつくということは当然知っているでしょうから、現実的な可能性として大部分を占めるのは1と2です。 起こりやすいのは、2でしょう。そして警察も盗みのプロやその関係筋という観点から、ある程度ルートを追いやすいのです。 難しいのは、1です。犯人が明らかな痕跡を残していない場合は、犯人像が絞りにくいのです。今回の犯罪は、ゴッホの誕生日に行われたことから、なんとなく1の可能性もある気がしてなりません。 しかしながら、オランダで近年盗まれたゴッホ28作品はすべて、無事に美術館へ戻っています。本作品もできる限り早く戻ることを願っております。 それにしても、この絵画、ゴッホの円熟期のカラフルな作品とは全く異なりますね。その価値も数億円前後でしょうか。ただ、複雑な構図のまとめ方と女性のハッとさせるたたずまいに、ゴッホの突出した感性を感じずにはいられません。犯人が欲しかった気持ちは、十分に理解できます。