なぜ名画には犬が登場するのか?

家族写真を撮ろうとしたら、なぜか犬だけが完璧に写っていて、他の人は眼をつぶっているとか、カメラを見てないとか──そんな経験はありませんか?

実はそれ、皆さんが初めてではありません。

レンブラントも、ファン・エイクも、ベラスケスも、みんな犬に「画面ジャック」されてます。名画の中の犬は、時にはこっそりと、時には堂々と存在感を放っています。

今回は、アートも犬も大好きという方のための特集です。



名画に登場する犬たち

レンブラント『夜警』:美術史に響くワン!

レンブラント・ファン・レイン、『夜警』、1642、アムステルダム国立美術館、363 cm × 437 cm、油彩、キャンバス Photo:rijksmuseum

オランダバロック時代の巨匠レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)による名画『夜警』(1642年作、アムステルダム国立美術館所蔵)です。正式名称は、『フランス・バニング・コック隊長指揮下にある第2市民自警団』となります。

この大迫力の絵の片隅で、ひときわ元気に吠えている犬がいます。クロースアップで見ましょう。


レンブラント・ファン・レイン、『夜警』部分 Photo:rijksmuseum

長い間「なんでこの犬なのか?」と謎だったのですが、最近の研究で、レンブラントが別の画家のスケッチを参考にしたらしいことが判明しました。そちらの方もお見せしましょう。


アドリアーン・ピーテルスゾーン・ファン・デ・フェンネ、『犬の描写』、ヤーコプ・カッツ著『Self-Strijt(内なる闘争)』のための扉絵デザイン、1619年より Photo:rijksmuseum

レンブラントは、「もうちょっと動きが欲しいな…そうだ、犬だ!」と思ったのだと思います。結果として、絵に躍動感とちょっとした混乱、そして愛嬌をプラスする名脇役になりました。

実際に、絵画ではよく使われる手法です。


ヤン・ファン・エイク『アルノルフィーニ夫妻像』:結婚で「良い夫婦になる」証明書

ヤン・ファン・エイク、『アルノルフィーニ夫妻像』、1434年、
パネル、油彩、84.5 cm × 62.5 cm、ナショナルギャラリー、ロンドン、Photo: wikipedia

夫婦の足元でちょこんとこちらを見つめる小型犬。犬種は、ブリュッセル・グリフォンの祖先と考えられています。小さいサイズでも、その存在感は抜群です。

というのも、ただのペットではなくて、忠誠心と夫婦の誠実さを象徴しています。つまり中世版の「私たち、ちゃんと信頼し合ってます」というアピールになっています。キュートな犬が登場するだけで、画面に暖かさと生命感が感じられます。

構図的にも中央でふたりをつなぎ、また犬だけがつぶらな瞳で私たちと視線を合わせるので、もう家族の一員としての圧がすごいです。

それにしても、ファン・エイクの生きているような細密描写には恐れ入ります。


ヤン・ファン・エイク、『アルノルフィーニ夫妻像』部分 Photo:wikipedia

ベラスケス『ラス・メニーナス』:王宮のど真ん中でくつろぐ大物

ディエゴ・ベラスケス、『ラス・メニーナス』、1656年、318 cm × 276 cm、油彩、キャンバス、プラド美術館、マドリード Photo: wikipedia

この複雑で不思議な構図の絵の中で、堂々と寝そべっているのが大きなスペイン・マスティフ犬です。

周りがバタバタしていても全く動じない存在で、実際に絵全体に安定感を与える重要な存在になっています。下部に犬がいないと、物足りない構図になってしまうことにお気づきいただけるでしょう。

マスティフ犬は、伝統的に護衛犬なのですが、ここでは、幼い王女マルガリータを守る存在として描かれていると解釈できます。犬は犬種にかかわらず、忠誠心や保護のシンボルとして描かれます。

犬の手並みの描き方がベラスケスの熟練の技でして、細密ではなくて、光と影を面としてとらえています。そのおかげで全体の空気感の中にみごとに溶け合っています。


ディエゴ・ベラスケス、『ラス・メニーナス』部分、Photo:wikipedia

犬が超絶上手い!ふたりの天才画家

19世紀イギリス画家エドウィン・ランドシアー

エドウィン・ランドシアー、『エオス』、1841年、111.8 x 142.9 cm、油彩、キャンバス、王室ロイヤルコレクション、 Photo:wikipedia


犬は、飼い主に似ると言いますが、見ただけで主人が高貴な人であることが想像できます。グレイハウンドは伝統的に宮廷生活と結びついた犬種であり、歴史的に宮廷生活を描いた絵画にたびたび登場します。

この牝のグレイハウンドは、ヴィクトリア女王の夫であるアルバート公の愛犬で、その名はエオスです。アルバート公が結婚前から所有している犬でした。

19世紀イギリス画家エドウィン・ランドシアー(1802-1873)の手にかかると、犬はまるで感情豊かな俳優のようです。高貴さ、献身、心優しさといった人間らしさが伝わってきます。

この絵は、ヴィクトリア女王から夫へのクリスマスプレゼントでした。犬が主役にもかかわらず、アルバート公のシルクハット、グローブ、ステッキが描き込まれているので、犬と飼い主の肖像画のようです。


18世紀イギリス画家ジョージ・スタッブス

ジョージ・スタッブス、『小舟に乗る白いプードル』、1780年頃、油彩、キャンバス、127 x 101.5 cm、ナショナルギャラリー、ロンドン

ジョージ・スタッブス(1724 – 1806)のことはご存知の方が多いのではないでしょうか。

馬の絵の解剖学的な正確さと気品ある描写で有名です。しかしご覧の通り、馬だけでなく犬やライオンなど多様な動物を描き、動物画を「低いジャンル」とみなしていた当時の価値観を覆すほどの評価を獲得した画家です。

このプードルに関しても単なる写生としてではなく、生命力や個性を感じさせる存在として描き出されています。動物の身体構造への深い理解があったからこそ、それを芸術性へと高めることができたのです。

それにこの作品を含めて、スタッブスの作品の構図は、これからドラマが起こりそうでわくわくします。このプードル、飛び込みそうですよね!


まとめ

なぜ名画には犬が登場するのか?その理由はシンプルで、犬は、

  • 忠実
  • 表情豊か
  • 物語を作りやすい
  • 存在感が強い
  • 構図上の必要性

つまり、アーティストにとって、犬は絵を生き生きさせる「最高の助演俳優」だったのです。

次に美術館に行ったら、ぜひ犬を探してみてください。小さくても、寝ていても、吠えていても、その絵にちょっとした魔法をかけてくれているはずです。