アート… 大ゴッホ展公開中!『夜のカフェテラス』を考察する 06/04/2026 上野の森美術館で、遂に「大ゴッホ展──夜のカフェテラス」が開幕(2026年5月28日 〜8月12日)しました。 せっかくですので、その目玉であるクレラー=ミュラー美術館所蔵『夜のカフェテラス』について少し丁寧に観ていきたいと思います。 実は、この作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ作『最後の晩餐』へのオマージュ説も出ておりまして、そのあたりもご紹介してまいります。 フィンセント・ファン・ゴッホ、『夜のカフェテラス』、1888、81.0 cm × 65.5 cm、油彩、キャンバス、クレラー=ミュラー美術館、エデ、オランダ 作品の背景 ファン・ゴッホが、1888年9月中旬にアルル旧市街のフォルム広場に面したカフェを描いた作品です。パリからアルルへと移り住んで半年が過ぎ、明るく温暖な気候の地で心理状態が安定し、創作意欲も高まっていた時の一枚です。 このカフェは、彼が住んでいた黄色い家から徒歩約10分圏内にありました。ファン・ゴッホは常に金欠気味でしたが、そのフォルム広場のカフェは、他よりも高級であったにもかかわらず彼の行きつけだったようです。 この作品には次のスケッチが残っていますが、絵画の方もある段階までその場で描いた可能性が高いです。妹に宛てた手紙の中で、次のように述べています。 「私は夜に現場で描くのが大好きだ。昔の画家はまずスケッチをして、昼間にアトリエで絵を仕上げた。しかし私は、その場で直接描く方が性に合っている。」(ウィルヘルミナへの手紙、1888年9月14日) フィンセント・ファン・ゴッホ、『夜のカフェテラス』、ドロ-イング、1888、62.8 X 47.1 cm、チョーク、ペン、インク、グラファイト、紙、ダラス美術館 作品の内容 深い夜の街角でにぎわうカフェが、巧みな配色、考えられた構図、興味深いモチーフによって捉えられた作品です。視点誘導(カフェから、小径、その奥、夜空へと)が卓越しています。 まず眼が’引きつけられるのは、壁から伸びたアームに取り付けられたガス灯から放たれる強い黄色い光です。その光は、天井や壁、石畳までも広がっています。 そのカフェでは、ウェイターと思われる白い服を着た人物が中央に立ち、それを囲むように、11人の客が丸テーブルに着席し、ひとりがドアのところに立っています。カフェ内だけでも、バランスのとれた構図が上手いです。 厚塗りの絵具は光を触覚的な体験として表現しており、異なる筆致(短い、長い、渦巻、力強い)がリズムを生んで画面を躍動させています。こうしたファン・ゴッホの真骨頂がいかんなく発揮されています。 そのカフェから視点は右の石畳の小径へと、さらにはその奥の闇へと誘導されます。ここでは、消失点が右にそれた一点透視図法を使っています。そこから、馬車がこちらに向かってきます。小径にいる人々の中には、馬車を待っている人がいるのかもしれません。 眼が上に誘導されると、ブルーの空には、満天の星が輝いています。UCLA教授だった美術史研究者アルバート・ボイムによれば、ファン・ゴッホは、忠実に空の様子を捉えようとしており、みずがめ座の位置から11:00PM頃と推測されています。 色は補色を並列させ、また夜にもかかわらず黒を広く使用しないところに特徴があります。実際、ファン・ゴッホは、黒に頼らない夜を描いたことを自負していることが、妹への手紙からうかがえます。 「今や、黒を使わない夜の絵ができあがった。美しい青、紫、緑だけで描かれた夜であり、その色に囲まれた中で、明るく照らされた広場は淡い硫黄色やレモン・グリーンに染まっている。」(ウィルヘルミナへの手紙、1888年9月14日) 友人からのインスピレーション 『夜のカフェテラス』の制作にあたり、ファン・ゴッホを刺激した一枚の絵がありました。 それが、同時代のフランス画家ルイ・アンクタン(1861–1932)が描いた次の『クリシー大通り(通り ― 午後5時』です。アンクタンが26歳の時、『夜のカフェテラス』の10か月前に制作した作品です。 アンクタンは、ファン・ゴッホと同じ先生フェルナン・コルモン(1845–1924)の画塾で共に学び、切磋琢磨していました。 ルイ・アンクタン、『クリシー大通り(通り…