コートルド美術館展レビュー 東京都美術館

いよいよ終了(12月15日)まで、あと6日を残すばかりとなりました。2019年で最も観るべき美術展と言えるでしょう。 コートルド美術館は、テキスタイル産業で成功した実業家であったサミュエル・コートルド(1876-1947)が、自らのコレクションを遺贈するために設立した美術館(The Courtauld Institute of Art)です。 実業家とアートコレクターという組み合わせは、日本でも世界的にもよくあるパターンですが、中にはお金の許す限り、ただ手あたり次第収集しまくったというコレクションも珍しくありません。 その点、このコートルドコレクションは、まさに世界最高レベル、それぞれの絵画が、画家の傑作と言えるほど一級品揃いなのです。コートルド自身が、相当の鑑識眼を持っていたことを証明しています。 その中でも、じっくりと眼を肥やすに値する、突出した絵画2点があります。 まず1点めは、エドアール・マネの晩年の大作『フォリー・ベルジェールのバー』(1882)です。 エドアール・マネ、『フォリー・ベルジェールのバー』、1882、96 X 130 cm、コートルド美術館 コートルドが、コレクションの中で一番高い値段を払って入手した作品です。大きめのキャンバス(96 x 130 cm)に、背景の鏡に映りこんだシーンを描く難しい構図は圧巻です。印象派の筆致にもかかわらず、各モチーフが精緻に描かれていて、19世紀のバーの雰囲気に引き込まれる魅力があります。 もう1作品は、ピエール=オーギュスト・ルノワール『桟敷席』(1874)です。 ピエール=オーギュスト・ルノワール、『桟敷席』、1874、80 X 63.5 cm、 コートルド美術館 『桟敷席』は、コートルドが2番目に高い値段で入手した作品です。 「エレガント」や「シック」という言葉が最も似つかわしい作品と言っても過言ではありません。 実物とオンライン画像に大差があるのが、この作品です。画像ですと、白とテクスチャーが、単調でフラットに見えてしまうのです。 実際に観察すると、数え切れない白のトーンが流れ込んでいますし、バラエティー豊かなテクスチャーの競演に眼をしばし奪われてしまうこと間違いないありません。

ダ・ヴィンチ研究の集大成

カーメン・バンバック(メトロポリタン美術館キュレーター)著、『レオナルドダヴィンチ再発見(Leonardo da Vinci Rediscovered)』 つ、遂に出ました『Leonardo da Vinci Rediscovered ( レオナルド・ダ・ヴィンチ 再発見)』。 世界的権威のひとり、ニューヨークメトロポリタン美術館キュレーター、カーメン・バンバックが、24年間の研究成果を結集させたすごい本です。4巻本、2350ページ! ニューヨークタイムズでは、ベストアートブックス2019年の一冊として選ばれていました。現在、パリルーブル美術館とロンドンナショナルギャラリーでダ・ヴィンチ没後500年記念展がそれぞれ行われていますが、そのカタログを合体させたよりも価値が高いと絶賛しています。 いまだに真贋が議論になっている『救世主(Salvador Mundi)』についても、科学的調査に基づいて書かれていて興味津々です。 イェールの大先輩である著者の偉業を心から称えたいと思います。 ゆっくり読んでからレビューします。

良い病院のアート

久しぶりに都内の大病院のひとつに行ったのですが、あまりの混雑ぶりに圧倒されました。広い待合室にもかかわらず、空席はまばらでした。予約があっても、30分以上待つのは普通だそうです。 待ち時間が長かったからといって、効果的な読書やパソコン作業ができないのが、病院という場所ではないでしょうか。 もちろん病気への心配もありますし、医師にどのように説明しようかを頭の中でリハーサルしたりして、落ち着かない気分だったり、ぼーっとしたり、本体の自分というわけにはいきません。 最近のデンマークの研究で、患者へのアートの効用が実証されています。 ■待合室の患者の満足度が向上する ■治療効果も上がる(入院期間の短縮、痛みの許容度など) スペンサー・フィンチ、夏山へ行く (2017)、 クリーヴランドクリニック、Courtesy of James Cohan Gallery. Photo: Steve Travarca. artnet.com でも、いったいどんなアートが患者にとって最も有益なのでしょうか。 この点に関しては、まだ一致した見解はありません。ただ 風景画が、 不安な心情や弱った体をいたわるために有効なことは間違いないでしょう。 キャサリン・オピエ、中間地点 (2010/11). ©Catherine Opie, courtesy Regen Projects. Photo: Neil Lantzy. artnet.com…