ちょうど『知覚力を磨く』を執筆していた時、出張先だったニューヨーク郊外に数か月のあいだ足止めされました。突然、新型コロナウィルスが猛威を振るい始めたので、日本へ戻るのが危険だったからです。
ニューヨークの惨状がすぐ隣で起こっていたのですが、大きな救いだったのが、より便利な世の中になっていくのを、眼のあたりで観察できたことでした。
実に緊急事態下で、イノベーションは超特急で生まれていきました。
例えば、
■2時間以内の食料品エキスプレスデリバリー
あの広い米国で食料品を2時間以内に届けるサービスが可能になったは驚きでした。それも大都市だけではなく、郊外でも。これは、イノベーションと言わざるを得ません。
かつてはアマゾンでさえも数日かかっていたことを、アマゾンはもちろん、地元の中小規模ストアでも、インスタカートとつなげることで最速でやり遂げたのです。
人々をハッピーにしただけでなく、一か月で30万人もの雇用を創出しました。
■ボディガードアプリの誕生
新型コロナに加えて、大統領選挙に関連した不穏な状況で、大都市は動揺と不安に包まれていました。そこで生まれたのが、ボディーガードアプリ、bond (ボンド)です。その名前はもちろん、あのジェームス・ボンド(James Bond)に由来しています。
公認ボディガードをつけてくれたり、安全な車を配車してくれたり、外出時は、目的地に着くまでヴァ―チャルで監視してくれます。警察へもクリックするだけでつながります。
これ以外にも、注文しておけば店舗の横に車をつけて商品が手に入るカーブサイド・ピックアップや、インターネットを使用しない高齢者が助けが必要な時にレッドサインを表示するといったアナログ的イノベーションなどまでキリがありませんでした。
ところで、14世紀にヨーロッパ大陸の人口の3分の一を奪った黒死病(ペスト)は、直接的にも間接的にも文化が隆盛を極めたルネッサンスへと導いたと言われています。
いろいろな理由があります。しかしそれまで当たり前だと信じていたことに疑問を抱き、改めてありのままの世界を観ようとし、知覚力を最大限に発揮したことが基本にあります。
それによって、労働力が効率化し、医療医薬が向上し、教育も多様化しました。観察によって創造力が活性化し、世界はリフォームされて素晴らしい進化を遂げたのです。
日本でも周りを見渡せば、非接触のための工夫が続々とお目見えしていますよね。その中のいくつかは新型コロナが終息しても残っていく勢いがあります。
人間の知覚力という土台がイノベーションを育む限り、パンデミック後にはより明るい世界がやって来ることを信じずにはいられないのです。