美術展 ストレスを軽減する美術展 05/21/202105/21/2021 フィンセント・ファン・ゴッホ、『アルル近隣のアイリスのある草原』、1888年5月、油彩、キャンバス、54 X 65cm, CR: Van Gogh Museum, Amsterdam 美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」が大盛況 ヒューストン美術館で開催されている美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」(6月20日まで)が、大人気となっています。 ホックニー作品の一部は、ロンドンローヤルアカデミーでも美術展「ノルマンディーの春の訪れ」(5月23日〜9月26日)でも公開されることになっています。しかし、すでにチケットは売れ切れとなっている状況です。 身体が自然を求めている 自然の中を15分散歩しただけで、ストレスホルモンであるコルチゾールが下がります。ですから、リモートワークの合間に行っていただくのは有意義です。 それに加え、たとえスクリーン上であっても、自然を描いた絵画に触れていただくのは健康上優れています。 なぜでしょうか? まず、絵画を観察するだけでコルチゾールが下がったという研究があります。また、人間は、木、植物、あるいは緑を見れば、脳は反応して、かつて自然に触れたときの記憶と統合して解釈をすることができるからです。 自然の解放感や爽快感や、緑のみずみずしさを体感してストレスを軽減できるというわけですね。 試してみると… 実際に、美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」で試してみると感じていただけると思います。 残念ながら、ホックニー作品は著作権の関係でこのページには出せないのですが、美術展リンクから入って、左上のホックニーの絵画「Woldgate Vista」をクリックいただくと、素晴らしい作品群が拡大してご覧いただけます。 いかがでしょうか。おそらく、自然や色彩に脳が反応して、自分自身が自然に入り込んでいるかのような気分になっていただけるでしょう。 今週もお疲れさまでした。良い週末をお過ごしください!
美術展 大規模なアルテミジア・ジェンティレスキ展がいよいよ開幕 09/29/202009/30/2020 イタリアバロック女性画家であるアルテミジア・ジェンティレスキ(1593〜1652)の展覧会が、ロンドンナショナルギャラリーで開催(2020年10月3日〜 2021年1月24日)されます。 男性ばかりの17世紀のアート界で、女性として初めてフィレンツェの美術アカデミーの会員と認められ、国際的に名をとどらかせ、しかも権力あるパトロンたち(トスカーナ大公コジモ2世、イギリス国王チャールズ1世、スペイン国王フィリップ4世など)に支持されていた才能溢れる画家です。 また、女性として生きにくかった時代で、彼女の魂の叫びが作品に込められていて心を動かします。 アルテミジア・ジェンティレスキ、『アレキサンドリアの聖カタリナとしての自画像』、1616年頃、油彩、キャンバス、71.5 cm X 71 cm、ナショナルギャラリー、ロンドン ジェンティレスキの生涯 生い立ち アルテミジアは、画家であった父親オラツィオ・ジェンティレスの長女(5人兄弟の最年長)としてローマに生まれました。カラヴァッジオのスタイルを踏襲していた父親の下、彼女は、その多大な影響を受けながら、他の兄弟たちよりも優れた才能を発揮していきます。 最も初期の作品は、『スザンナと長老たち』です。アルテミジアが、17歳の時の作品です。構図が、とても新鮮なことがまず目をとらえます。 アルテミジア・ジェンティレスキ、『スザンナと長老たち』、1610年頃、油彩、キャンバス、170 cm × 119 cm、シュロスヴァイセンシュタイン城、ポンマースフェルデン、ドイツ レイプ事件 わずか一年後の1611年、彼女が18歳の時、画家アゴスティーノ・タッシに強姦されてしまいます。父親とよく仕事をしていたタッシは、アルテミジアに遠近法を教えるように頼まれたと言います。 詳細な裁判記録が残されており、アルテミジアの冷静で勇敢、説得力ある陳述に驚かされます。結果、タッシには有罪判決が下り、ローマから追放されることになります。 そして裁判の翌年、アルテミジアは、父親の配慮により、知名度の低い画家と結婚し、フィレンツェへと移り住みます。 その後 フィレンツェ(1612〜1620)では、5人の子供を授かり家族生活が充実したことに加え、画家としてもコジモ2世の支援に恵まれ、宮廷画家として成功しました。 約7年の滞在をフィレンツェを経て、ローマに戻り(1620〜1626)、さらにベニス(1626〜1630)、ナポリ(1630〜1652)と過ごします。ナポリ滞在中は、チャールズ1世の招待を受けてロンドン(1638〜1641)も訪れています。 彼女の傑作2点は、ローマに戻った時に生まれています。 アルテミジア・ジェンティレスキ、『ホロフェルネスの首を斬るユディト』、1614〜1620年頃、油彩、キャンバス、199 cm X 162.5 cm、ウフィツィ美術館 アルテミジアは、『ホロフェルネスの首を斬るユディト』を2点制作しています。最初のバージョンは、1612年頃完成しています。この2つめのバージョンは、フィレンツェ滞在中に着手し始め、ローマに戻ってから完成しています。 その裏には、同じ題材で描かれたカラヴァッジオの影響があったことは否定できないでしょう。比較してみると、面白いです。…
美術展 ラファエロ2020美術展リスト 12/25/201907/24/2020 2020年は、ダヴィンチ、ミケランジェロともに盛期ルネッサンス3大巨匠であるラファエロ・サンティ(1483-1520)の没後500周年にあたります。 それを記念し、世界中で行われる美術展をリストアップしておきましょう。 『ウルビーノのラファエロと友人たち』マルケ国立絵画館、ウルビーノ ■2019年 10月3日〜 2020年 1月 19日 ウルビーノで生まれたラファエロが、最初の師であったピエトロ・ペルジーノから何を学び、ジュリオ・ロマーノなどの弟子たちに影響を与えたかを探る展覧会です。 次のロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵『アルドブランディーニの聖母』が観覧できます。 ラファエロの最も円熟した聖母子像と言える作品です。 ラファエロ・サンティ、『 アルドブランディーニの聖母 』、1511、38.9 x 32.9 cm、ナショナルギャラリー、ロンドン 『ラファエロ in ベルリン:ゲメルデガレリー(絵画館)の聖母』ベルリン美術館 ■ 2019年12月13日〜 2020年4月26日 別ブログに詳しく書いていますので、そちらをぜひご覧ください。 『ラファエロとその仲間たち』ナショナルギャラリー、ワシントン ■2020 年 2月16日〜 2020年 6月14日…
美術展 ラファエロ2020の第2弾 ベルリン美術館絵画館 12/12/201906/30/2020 ダ・ヴィンチ没後500周年を記念する美術展の興奮はまだ冷めることはありません。 にもかかわらず、なんと来年は、ダヴィンチ、ミケランジェロともにハイルネッサンス3大巨匠であるラファエロ・サンティ(1483-1520)の没後500周年にあたります。 わずか37歳で夭折したラファエロですが、信じられないほど多作で、絵画から、ドローイング、版画、彫刻、タペストリー、教会デザイン、詩までに関わっています。 短命でも 彼の芸術性を存分に昇華できた理由は、彼の「完璧な紳士」のような性格にあったと言われています。温和で誰の意見にも耳を傾け、パトロンたちの信頼を築き、工房のマネジメントにも活かされたのです。 ラファエロの芸術が結集する美術展が続々と予定されていますが、 その第2弾が開幕しました。第1弾はすでにラファエロ生誕地、ウルビーノにあるマルケ国立絵画館にて『ウルビーノのラファエロと友人たち』が始まっています。 ベルリン美術館『ラファエロ in ベルリン: ゲメルデガレリー(絵画館) の聖母』 2019年12月13日〜 2020年4月26日 ところで何がハイライトなのでしょうか。 当美術館が所蔵する5点の『聖母子像』とロンドンナショナル・ギャラリー『カーネーションの聖母』を、ひとつの部屋でじっくりと観察する贅沢すぎる展覧会なのです。 ベルリン美術館「ラファエロ in Berlin」 (AP Photo/Markus Schreiber) その中心に展示された目玉が、メダリオン型ポプラ材パネルに描かれた聖母子、洗礼者ヨハネ、聖なる子です。視線を投げ方、肌の透明感、バランスのとれた背景、イノベイティブな構図が、ラファエロの独創的な世界を創っています。 ラファエロ・サンティ、『テラヌオーヴァの聖母』、1505頃、88.5 cm、ベルリン美術館 面白い比較としてもう一枚油彩を見てみましょう。聖母子とともに、聖ヒエロニムス(左)と聖フランシスコ(右)が描かれています。上の絵のわずか3年前に書かれた絵なのですが、少し硬さがあることに気がついていただけるのではないでしょうか。でも、構図のユニークさ、整然とした背景との一体感、微妙なテクスチャーの描き分けはすでに際立っています。 ラファエロ・サンティ、『聖母子と聖人』、1502頃、35.3 X 29.8 cm、ベルリン美術館 ラファエロのドローイング力は、世界の名立たる画家の中でも傑出しています。ドローイングを観察すると、彼の天才ぶりが一層鮮やかに分かります。…
美術展 師匠の芸術性も崇高だった!アンドレア・デル・ヴェロッキオ展 12/11/201910/04/2020 ダ・ヴィンチ没後500周年ということで、今年は、世界中の美術館、図書館、博物館で関連する展覧会が開催されています。 ダ・ヴィンチそのものがフォーカスではないのですが、素晴らしい美術展が、ワシントン・ナショナル・ギャラリーで催されています。 それが、『ヴェロッキオ:ルネッサンス時代フローレンスの彫刻家・画家』です。2019年9月15日〜 2020年1月12日となります。 ヴェロッキオ(1435-88頃)の名前になじみがない方も多いのではないでしょうか。ところが実際には、レオナルド・ダ・ヴィンチ の他、 ピエトロ・ペルジーノ(ラファエロの師)、そしておそらく サンドロ・ボッティチェリ を育てた恐るべきアーティストなのです。 残念ながら、ダ・ヴィンチの師匠ということばかりが強調されている影で、 ベロッキオ の技術、才能、芸術性は過小評価されているのが現実です。 この展覧会は、まさに「ルネッサンスに、ヴェロッキオあり」と痛感させてくれます。もしもヴェロッキオが師匠でなければ、 ダ・ヴィンチはここまでの芸術家としての名声は築けなかったでしょう。 では、ヴェロッキオの作品を見てみましょう。 アンドレア・デル・ヴェロッキオ、『聖母子像』部分、1465〜70頃、ベルリン美術館 アンドレア・デル・ヴェロッキオ、『聖母子像』、1465〜70頃、54.6 X 75.8 cm、ベルリン美術館 彫刻家としてトレーニングを積んでいたこそ、人物の存在感、またベールやケープやドレスの質感と詳細がみごとに描き分けられています。 この絵画の写実性を、ヴェロッキオは、もちろん彫刻でも遺憾なく実現しています。 アンドレア・デル・ヴェロッキオ、『花を持つ女』、1475〜80年頃、60 cm、バルジェロ美術館、フィレンツェ 手とドレスの質感を、あまりにもみごとにとらえられています。この彫刻で思い出されるのが、あのダ・ヴィンチ作『ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像』です。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、 『 ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像 』、38.1 X…
美術展 コートルド美術館展レビュー 東京都美術館 12/09/201912/23/2019 いよいよ終了(12月15日)まで、あと6日を残すばかりとなりました。2019年で最も観るべき美術展と言えるでしょう。 コートルド美術館は、テキスタイル産業で成功した実業家であったサミュエル・コートルド(1876-1947)が、自らのコレクションを遺贈するために設立した美術館(The Courtauld Institute of Art)です。 実業家とアートコレクターという組み合わせは、日本でも世界的にもよくあるパターンですが、中にはお金の許す限り、ただ手あたり次第収集しまくったというコレクションも珍しくありません。 その点、このコートルドコレクションは、まさに世界最高レベル、それぞれの絵画が、画家の傑作と言えるほど一級品揃いなのです。コートルド自身が、相当の鑑識眼を持っていたことを証明しています。 その中でも、じっくりと眼を肥やすに値する、突出した絵画2点があります。 まず1点めは、エドアール・マネの晩年の大作『フォリー・ベルジェールのバー』(1882)です。 エドアール・マネ、『フォリー・ベルジェールのバー』、1882、96 X 130 cm、コートルド美術館 コートルドが、コレクションの中で一番高い値段を払って入手した作品です。大きめのキャンバス(96 x 130 cm)に、背景の鏡に映りこんだシーンを描く難しい構図は圧巻です。印象派の筆致にもかかわらず、各モチーフが精緻に描かれていて、19世紀のバーの雰囲気に引き込まれる魅力があります。 もう1作品は、ピエール=オーギュスト・ルノワール『桟敷席』(1874)です。 ピエール=オーギュスト・ルノワール、『桟敷席』、1874、80 X 63.5 cm、 コートルド美術館 『桟敷席』は、コートルドが2番目に高い値段で入手した作品です。 「エレガント」や「シック」という言葉が最も似つかわしい作品と言っても過言ではありません。 実物とオンライン画像に大差があるのが、この作品です。画像ですと、白とテクスチャーが、単調でフラットに見えてしまうのです。 実際に観察すると、数え切れない白のトーンが流れ込んでいますし、バラエティー豊かなテクスチャーの競演に眼をしばし奪われてしまうこと間違いないありません。
ダ・ヴィンチ… ダ・ヴィンチ没後500年を称える美術展 05/27/201909/03/2022 レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年(2019)に、世界各地で生前の偉業を称える壮大な美術展が開催されました。その主なものを挙げてあります。 真作として世界的に認められている15の絵画作品のうち、いずれかに触れられるまたとないチャンスでした。 Leonard da Vinci: A Life In Drawing クィーンズギャラリー、バッキンガム宮殿 2019年5月24日〜 2019年 10月 13日 `レオナルド・ダ・ヴィンチ、分断された頭蓋骨、1489、イギリス王室コレクション Leonardo da Vinci: A Mind in Motion 大英図書館、2019年6月7日〜 2019年 9月8日 ダ・ヴィンチの3つの手稿:アランデル手稿、フォースター手稿、レスター手稿に焦点を合わせた展覧会です。手稿について詳しくは、Resource を御覧ください。 Leonardo da Vinci's the…