奇抜すぎる『洗礼者ヨハネ』

この絵については、暗くて見えないという印象をお持ちだった方も多いのではないでしょうか。 ご心配には及びません。2016年に9か月間をかけた修復が終わり、見えにくかった毛皮の衣服、十字架、髪の毛の一部もはっきりと確認できるようになりました。 15層にも均一ではないワニス(耐候性に優れた透明な塗膜)に覆われていて、それを取り除くのは困難極めたそうです。では、じっくりとご覧ください。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『洗礼者ヨハネ』、1507〜1516、69 cm × 57 cm、油彩、パネル(クルミ材)、ルーブル美術館、パリ ※この『洗礼者ヨハネ』は、3DVR「ダヴィンチの5つの部屋」で観覧できます。ルネッサンスの臨場感をお楽しみください! 作品の概要 内容 洗礼者ヨハネ(紀元前1世紀後半〜28〜36年頃)は、キリスト教絵画で最も頻繁に描写される人物のひとりです。 新約聖書が、洗礼者ヨハネをキリストの前駆者として描写し、キリストをヨルダン川で洗礼したことを記しているため崇敬され、彼のストーリーは絵画化されたのです。 ひとつ有名な例を挙げておきましょう。ダ・ヴィンチが、まだアンドレア・デル・ヴェロッキ工房で修行中だった20代の頃に、ヴェロッキ工房作品として描いた作品です。この絵について詳しくは、改めて触れたいと思っています。 アンドレア・デル・ヴェロッキとその工房、『キリストの洗礼』、1475〜1476、油彩、テンペラ、パネル(ポプラ材)、177 cm × 151 cm、ウフィツィ美術館、フィレンツェ 右側の洗礼者ヨハネが、キリストよりもむしろ大きく描かれていることにご注目ください。また、ダ・ヴィンチ作『洗礼者ヨハネ』の身体的特徴とは相当異なる点にもお気づきいただけるでしょう。 両者に共通するのは、長い十字架です。これは洗礼者ヨハネのアトリビュートのひとつです。また、マタイ福音書(1:6)などには、「ラクダの毛をまとい、腰に皮ベルトをつけ、イナゴと蜂蜜を食べていた」と記されており、このラクダの衣服も彼のシンボルのひとつになっています。 右手は、胸を力強く横切って天を指差し、キリストの到来を伝えています。かすかに浮かべる謎めいた笑みは、『モナ・リザ』を彷彿とさせます。 背景 『洗礼者ヨハネ』が描き始められた動機や時期、いつ完成したのかについては分かっていません。一般的には、晩年最後の6年間、ローマとフランスのアンボワーゼ滞在中に制作されたと考えられています。 また、ダ・ヴィンチが、彫刻家ジョバンニ・フランチェスコ・ルスティチ(1475–1554)がフィレンツェにあるサン・ジョヴァンニ洗礼堂の彫刻『洗礼者ヨハネのパリサイ人とレビ人ヘの教え』(1509)制作にアドバイスした際に、発想を得た可能性もあります。中心で点を指差しているのが、洗礼者ヨハネです。 ジョバンニ・フランチェスコ・ルスティチ、『洗礼者ヨハネのパリサイ人とレビ人ヘの教え』、1509、ブロンズ、サン・ジョヴァンニ洗礼堂、フィレンツェ 写真:Antonio Quattrone, Florence  そして『洗礼者ヨハネ』は、ダ・ヴィンチが最期まで手放さなかった作品であった可能性が高いです。彼の弟子サライ(ジャン・ジャコモ・カプロッティ)の所蔵品リストに「小さくて若い聖ヨハネ」と書かれているからです。 ここが革新的 テクニックの極致 ■究極のスフマート 『洗礼者ヨハネ』が描かれた晩年期に、ダ・ヴィンチのスフマート技法(色彩や明暗の境界が分からないようにぼかす技法)は極致に達していたことが理解できます。 特に顔の部分の技術が高く、柔らかな立体感、幻想的な雰囲気を生み出しています。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『洗礼者ヨハネ』部分、ルーブル美術館、パリ ■大胆なキアロスクーロ…