仏画や仏像好きは多数いらっしゃるものの、キリスト教アートが好きという方は少ない気がいたします。おそらくは、とっつきにくいと感じる方が多いのではないかと想像しています。
しかしながら、宗教絵画にはみごとな作品が多いのも事実です。なぜならば、信者であるアーティストたちが神への帰依のために、魂を込めて描くからです。
今回は、クリスマスにちなみまして、「キリスト降誕」のアートに焦点をあてます。美しさ・祝福ムード・ほのぼの感に加えまして、時代や地域やアーティストによる独自性を比較しながらお楽しみいただけますと幸いです。
Table of Contents
「キリスト降誕」とは?
「キリスト降誕」は、マタイとルカ福音書のそれぞれ1~2章に記されています。
二つの福音書では誕生前後のエピソードが異なりますが、共通部分は、
1)キリストがユダヤのベツレヘム(現代のパレスチナ)で生まれたこと;2)母はマリアであること;3)父はヨセフ(マリアが婚約していたダビデ王の子孫)ではなく、その誕生は神の介入によってもたらされたことです。
「キリスト降誕」は12月25日に祝うようになったわけですが、上記福音書には、その時期についての記載はありません。では、なぜ12月25日がクリスマスになったのでしょうか?
クリスマスについての最初の記録は4世紀中期のローマに残っていますが、当時すでに12月25日行われていた太陽神を祭る冬至の祭典と同日に行われました。その理由は、最も暗い日を過ぎて太陽が再び力を増し始める日が、キリストは「世の光」であることと重なったからです。
「キリスト降誕」のアート
「キリスト降誕」といいますと、一般的にはその「生誕」シーンそのものを描いたアートを指します。その一方、「キリスト降誕」の前後のエピソード(すでに述べたようにマタイとルカの福音書で異なります)を描写したアートも存在します。
たとえば、マタイの福音書に書かれた「東方三賢者の来訪」、ルカの福音書に書かれた「受胎告知」「羊飼いたちの礼拝」は、多くの作品が存在するエピソードです。絵画だけでなく、彫刻、モザイク、タペストリー、祈祷書、ステンドグラスなどが制作されました。
ここでは、「キリスト降誕」と、その直後のエピソード「羊飼いたちの礼拝」を合わせた厳選6作品を見てまいりましょう。
スティリコの石棺のレリーフ

牛、ロバ、鳥に囲まれて、横たわるキリストが、ペディメント(切り妻の壁面の三角形部分)のなかに彫られています。麻の産着で巻かれてミイラのようですが、彼の生だけでなく死を象徴しているからです。
産着に巻かれ横たわる幼子キリストと牛とロバの組み合わせは、13世紀頃まで継続されています。
この石棺上のレリーフが 「キリスト降誕」の現存する最古のうちのひとつと言えるでしょう。というのも、より古いプリシラのカタコンベ(ローマの地下墓地、2世紀後半~4世紀)には、初期キリスト教美術のフレスコ画があるのですが、生まれたばかりの横たわった幼子キリストは描かれていないからです。
パラティーナ礼拝堂のモザイク

パラティーナ礼拝堂は、シチリア島パルレモのノルマン王宮2階にある礼拝堂です。
ビザンティン様式の金と色彩豊かなガラスで作った華麗なモザイクで有名ですが、モザイク版の「キリスト降誕」も含まれています。画像ではわからなくて残念ですが、光の反射が加わりますと、神聖な輝きを放って実に美しいです。
中央が「キリスト降誕」シーンです。その周りには、その前後のエピソードが描かれています。
右上から時計回りに、1)天使による羊飼いたちへの知らせ;2)羊飼いたちの来訪;3)助産婦による沐浴;4)ヨセフが頬に手を当てて心配している姿;5)三賢人と天使たち;となっております。
人間感情と自然さを最初に描いたジョット

200 x 185 cm
前のビザンティン様式と比べていただきますと、「西洋絵画の父」と呼ばれるジョットが何をしたかが明らかに見てとれますね。
二次元的だった画面は三次元的になり、人物も立体的になり、こわばっていた人や天使の表情が柔らかくなっています。聖母やヨセフには、人間の感情が吹き込まれて始めています。天使たちは、全身で喜びと祝福を示しています。
スクロヴェーニ礼拝堂には、「キリストの生涯」「聖母マリアの生涯」合計40シーンに加えて「最後の審判」と「悪徳と美徳の寓話」も描かれています。
2021年には、世界遺産に「パドヴァの14世紀フラスコ作品群」として登録されました。
北ルネッサンスの傑作

『ポルティナーリ祭壇画』は、圧倒されるサイズの三連祭壇画であるだけでなく、北ルネッサンスにおける「キリスト降誕」の傑作なのです。イタリアルネッサンスの画家たちに、その緻密な筆と人物の描き分けと油彩技術は大きな影響を与えました。
『ポルティナーリ祭壇画』は、中央パネルに「羊飼いたちの礼拝」を描いています。たくさんの人々を登場させているのもかかわらず、整理された空間構成が実に上手いです。横たわる幼子キリストを中心にして、人のグループを距離をとって配しています。
フォーマルで儀礼的な雰囲気があるのと、たくさんのシンボル(赤いユリがキリストの苦しみ、オダマキの花はアリアの7つの悲しみなど)を盛り込んでいるのもイタリアルネッサンスにはない特徴です。
時世を反映した異色作

他のボッティチェッリ作品をご存知の方は、この『神秘の降誕』が彼の優雅なスタイルと独自性で描かれていることにひと目で気がついたに違いありません。
喜びと祝福で舞う天使たちは華麗ですし、天空、現世、冥界と区分された構図はユニークです。また、「キリスト降誕」なのですが、向かって左には「三賢人」、右には「羊飼いたち」を描いて、降誕の意味を最大限に説明しています。
制作年1500年は、フィレンツェにとって激動の終わりでした。 フランス軍による侵攻(1494年)と脅威と、ジロラモ・サヴォナローラによる神権政治の失敗と彼の処刑(1498年)が続きました。
ボッティチェッリは、キリストの降誕でもたらされる平和を心から望み、この作品にその思いを込めたわけです。
2度と見られない人間味あふれる祭壇画

カラヴァッジオが、殺人罪でローマから逃亡後、シチリア島パルレモに数か月滞在した際に制作した作品です。また、彼が亡くなる一年以内の作品でもあります。
聖ローレンスが絵の向かって左、聖ラウレンティウスが右、その横には羊飼いがいます。座り込んだ聖母と幼子キリストに向かって、すべての人々はかがみこむように礼拝しています。この構図と、天才的な光の使い方によって人間の感情的ドラマになっています。
残念ながら1969年にマフィア絡みの盗難に遭い、さまざまな被疑者などの供述をもとにすると、すでに処分されてこの世には存在していないのではないかと推測されています。残念でたまりません!
まとめ
さて、「キリスト降誕」のアートを年代順に概観してまいりました。
同じエピソードとはいえ、比較するとそれぞれの個性が鮮やかに理解できて非常に興味深いです。
今回ご紹介した他にも、まだまだ優れた作品がたくさん存在しますので、これをきっかけとして美術館などで探訪していただますと至福の時間を過ごせるはずです。
た、ただし、かなりの数あるので、一生涯かかるかもしれません(笑)。
では、皆さまの素敵なクリスマスシーズンをお祈りいたしております!
