2019年4月15日のノートルダム大聖堂大火災から5年半が経過し、クリスマス目前の2024年12月7日のリオープニングセレモニーとともに公開が再開されました!アート作品には甚大な損害が及ばなかったのは、不幸中の幸いでした。
そのノートルダム大聖堂にちなんで、またクリスマスにぴったりなトピックということで、心揺さぶられる『ピエタ』作品についてお届けしたいと思います。
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「ピエタ像(キリスト降架)」とは?
「ピエタ像」は、日本語で「キリスト降架」と訳されていることが多いのですが、実際「ピエタ」の直訳は、「哀れみ、慈悲」です。英語の”pity”ということになります。
「ピエタ」は、聖母マリアが磔刑の後に十字架から降ろされたキリストの亡骸を抱きかかえるシーンで、キリスト教美術が頻繁に描写する題材となります。聖母マリアとキリストだけでなく、天使・聖人ヨハネ・マグダラのマリア・依頼者が加えられることもあります。
12世紀後半のドイツが起源でヨーロッパ諸国(イタリア・フランス・オーストリア・オランダ・イギリス・ロシアなど)に広がり、20世紀まで作品が作られ、その人類のために犠牲となった息子キリストと母のシーンに心を揺さぶられてきました。彫刻を眼にしやすいかもしれませんが、絵画もかなりの数で描かれています。
「ピエタ」3選
ニコラ・クストゥ 1723年
最初の作品は、ノートルダム大聖堂祭壇中央を飾る『ピエタ』です。5年半前の火災では、すすを浴びただけで幸運にもダメージはありませんでした。
彫刻家ニコラ・クストゥ (1658-1733) の晩年の作品です。クストゥは、彫刻家一族に生まれ、おじ、弟とともに活動することが多く、また王室とのつながりも強いことからベルサイユ宮殿庭園の彫刻も一緒に手掛けています。
悲嘆にくれた表情の聖母マリアが両手を広げて、自分を神の意志に捧げるポーズを取っています。2人の天使を伴っていますが顔を背けており、聖母マリアの嘆きに完全に焦点を置いてドラマティックに演出しているところが、まさにバロック様式の特徴を示しています。後ろのステンドグラスとの調和も美しいです。
ミケランジェロ・ブオナローティ1499年
2作品めは、ミケランジェロが24歳の時に作った最初の『ピエタ』です。彼は生涯を通して合計3点の『ピエタ』を作っています。もう1点ありますが、真贋については両説あります。これらのうち、この1点だけが完成して、残り3点は未完です。
『ピエタ』というと、このミケランジェロ作品と同一視されることも多いくらい有名な作品です。その理由は、もう美観に尽きると思います。とにかく、大理石の塊をノミで掘り出したとは到底信じられないほど、自然でなめらかな曲線です。
そしてさまざまなテクスチャの表現が巧みです。衣紋線、聖母マリアの肌質、亡くなったキリストの肋骨や腕の血管などです。こうした丁寧な写実的な描写が、さらに感情的なドラマを盛り上げ500年以上にわたって世界一有名な『ピエタ』である理由と言えるでしょう。
ミケランジェロが唯一、署名を入れた作品でもあります。
ミケランジェロ・ブオナローティ1564年
3作品めも、ミケランジェロ作品となります。18世紀アートコレクターであったジュゼッペ・ロンダニーニ(1725-1801)が所有していたことから、『ロンダニー二のピエタ』と呼ばれています。
なぜこの未完成作品を選んだかと不思議な方もいらっしゃるでしょう。実は、ミケランジェロにとってとてもプライベートな作品なのです。誰の依頼によってでもなく、自分の墓のために死の直前6日前まで取り組んだいた作品です。自らに忍び寄る死を前の最期に、そこはかとない悲哀と熱情を感じます。
2作品めと比較していただけますと、構図もスタイルも全く異なることにお気づきいただけるでしょう。若い頃の理想的な肉体美へこだわりが削り取られることによって、母と息子の強く温かいつながりにスポットライトがあたっています。
未完成だからこそ、私たちの創造性を駆り立てて、一層深みのある作品になっています。実際、後世のアーティストたちの心も動かしています。その一例として、ウジェーヌ・ドラクロワ (1798-1863)の『ピエタ』を挙げましょう。
聖母マリアの腕の位置は、異なっていますが、直立気味のキリストが聖母マリアにうなだれかかるミケランジェロの構図を踏襲していますね。
鮮やかな色・ドラマ・新奇な構図に関心があったドラクロアにとって、『ピエタ』は恰好の題材だったようで、他の構図でも作画しています。
まとめ
『ロンダニー二のピエタ』ですが、写真ですと360度方向から見られないので残念です。よく見ると、キリストの右腕を彫り出したものの切り離されていて、聖母マリア側に添えられるようにデザインが変えられているのです。ずっと見ていても飽きない作品です。
2024年も最後までブログをお読みいただきましてありがとうございました!
慌ただしい年末ですが、どうぞ健やかにお過ごしくださいませ。来年もダヴィンチ研究所をどうぞよろしくお願いいたします。それではまた次回に!