アート… 絵はライン(線)まで観よう 03/14/202503/15/2025 以前、色について少し触れたことがありますが、今回は「線」に注目いたします。 絵画の構成要素はおおまかに、色・形・線・スペース・テクスチャーです。人間の知覚の特徴から、色に最も気がつきやすいです。 しかし、絵を前にして、線も意識して観ていただけるとその美しさに感動していただけるでしょうし、絵に対する観察力も分析力もレベルアップします。 絵は線から始まる ブロンボス洞窟で発見された世界最古の線画、約7万7千年前、南アフリカ Photo: theguardian.com 当たり前のことのようですが、絵は、線描から始まっています。 今から7万7千年前の線刻された黄土の破片が、南アフリカで発見されています。現存する最も古い絵画よりも、2万年以上も時代が遡ります。 上の画像では、線が抽象的なパターンを作っています。何かのシンボルでしょうが、私たちの祖先がこの頃から抽象的思考をしていたことは大変興味深いです。 そして線は形を作る 現存する最古の絵画、約51200年前、リアン・カランプアン、スラウェシ島、インドネシア Photo: Griffith University 線が形を作った現存する最古の例が、約51200年前の野生の豚と3人の人間の姿です。インドネシア、スラウェシ島、リアン・カランプアンの洞窟で発見されています。 線は、輪郭を描いていますが、同時に形を作る輪郭線の中は単純に塗りつぶすのではなく、線で埋めています(ハッチング)。輪郭線には、太く濃く描いている個所があり、線による影(シェーディング)を意識した可能性もあるかもしれません。 私たちの祖先の絵の創造性は、当時からかなり発達していたことがわかります。 雄弁な線 優秀な芸術家の線は、2つの側面から雄弁です。ひとつは、表現力の面からです。さまざま感情・ムード・ダイナミックさ・リズム・静寂さなどを伝える線になります。 もうひとつは、技術的な側面で、線を描く筆遣いが巧みで、美しい造形美に感服させられる線描です。有名なアーティストだからといって、すべてがこの技量を持ち合わせているわけではありません。 線のすごい表現力 線の表現力が印象的な絵画といいますと、どんな絵が頭に浮かぶでしょうか。 線描の天才の中でもトップクラスと言えば、葛飾北斎(1760-1849)です。 もともと技術的にも筆遣いの達人ですが、晩年の『富嶽三十六景』では線の表現力を爆発させています。線の表現力が卓越しているということは、すなはち形も素晴らしく、また構図の組み立ての秀逸さにもつながっていきます。 葛飾北斎、『富嶽三十六景ー神奈川沖浪裏』、1831-34、25.7 cm × 37.9 cm、多色刷木版画、Photo:Wikipedia 見慣れている画像ですが、線に注目してみますといかがでしょうか。その天才ぶりに愕然とするのではないでしょうか。印象派の画家たちが敬愛したのもまったく不思議ではないです。 迫真的なカーブ・鳥の足のような波頭・波の質感、奥行・飲み込まれそうな船を描く線の妙技によって、富士山をも凌駕しそうな波の動きやダイナミックさが遺憾なく発揮されています。 この版画では、美しいプルシアンブルー(ベロ藍)に注目しやすいですが、じっくりご覧いただけるとわかるように色は線のアクセントにすぎません。 北斎についてご興味がある方は、「日本人としての教養―なぜ北斎はすごいのか?」でも書いております。 線の表現力が突出した作品を、もう一点挙げておきましょう。…