ティファニーを買収したベルナール・アルノー

フランスのLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン) が、米国籍のティファニーを162億ドル(約1兆7496億円)で買収する発表は、2019年の大きなビジネスニュースのひとつでした。 LVMH のCEOであるベルナール・アルノーは、世界富裕ランキング2019で ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスに次いで第3位。IT企業繁栄の中で、ラグジュアリー業界の底力を感じます。 ベルナール・アルノー、アンリ・マチス『赤のハーモニー』の前で。写真:wwd.com 実は、このアルノーですが、知る人ぞ知る世界屈指のアートコレクターのひとりです。モダン、コンテンポラリーアートを主流とし、パブロ・ピカソ、アンディー・ウォーホール、ジャン=ミシェル・バスキア、ダミアン・ハーストなどを所有しています。 しかし彼が最初にアートオークションで落札した絵画は、クロード・モネの連作で有名な『チャーリングクロス橋』の一枚だったそうです。モネが実際に入手できる事実に感動したことを語っています。 フランスで美術鑑賞というと、どうしてもルーブル美術館、オルセー美術館などが頭に浮かびがちですが、 コンテンポリーアートにジャンルに関しては、それらに匹敵する価値があるのが、 アルノー のコレクション と言えるでしょう。 そんな素晴らしいコレクションは、2014年に完成したフォンダシオン・ルイ・ヴィトン(FLV)で観覧することができます。 FLVの建築デザインを担当したのは、建築のノーベル賞とも言われるプリツカー賞受賞(1989)したカナダトロント出身のフランク・ゲーリーです。 フォンダシオン・ルイヴィトン © Gehry Partners, LLP and Frank O.Gehry. Crédit Photo © Iwan Baan, 2014 前衛的にもかかわらず、周囲の自然にしっくりとなじんでいる外観が、建築家としての力量を語っています。またモニュメンタル性が、世界をリードするラグジュアリーブランドのシンボルとしてぴったりです。

コートルド美術館展レビュー 東京都美術館

いよいよ終了(12月15日)まで、あと6日を残すばかりとなりました。2019年で最も観るべき美術展と言えるでしょう。 コートルド美術館は、テキスタイル産業で成功した実業家であったサミュエル・コートルド(1876-1947)が、自らのコレクションを遺贈するために設立した美術館(The Courtauld Institute of Art)です。 実業家とアートコレクターという組み合わせは、日本でも世界的にもよくあるパターンですが、中にはお金の許す限り、ただ手あたり次第収集しまくったというコレクションも珍しくありません。 その点、このコートルドコレクションは、まさに世界最高レベル、それぞれの絵画が、画家の傑作と言えるほど一級品揃いなのです。コートルド自身が、相当の鑑識眼を持っていたことを証明しています。 その中でも、じっくりと眼を肥やすに値する、突出した絵画2点があります。 まず1点めは、エドアール・マネの晩年の大作『フォリー・ベルジェールのバー』(1882)です。 エドアール・マネ、『フォリー・ベルジェールのバー』、1882、96 X 130 cm、コートルド美術館 コートルドが、コレクションの中で一番高い値段を払って入手した作品です。大きめのキャンバス(96 x 130 cm)に、背景の鏡に映りこんだシーンを描く難しい構図は圧巻です。印象派の筆致にもかかわらず、各モチーフが精緻に描かれていて、19世紀のバーの雰囲気に引き込まれる魅力があります。 もう1作品は、ピエール=オーギュスト・ルノワール『桟敷席』(1874)です。 ピエール=オーギュスト・ルノワール、『桟敷席』、1874、80 X 63.5 cm、 コートルド美術館 『桟敷席』は、コートルドが2番目に高い値段で入手した作品です。 「エレガント」や「シック」という言葉が最も似つかわしい作品と言っても過言ではありません。 実物とオンライン画像に大差があるのが、この作品です。画像ですと、白とテクスチャーが、単調でフラットに見えてしまうのです。 実際に観察すると、数え切れない白のトーンが流れ込んでいますし、バラエティー豊かなテクスチャーの競演に眼をしばし奪われてしまうこと間違いないありません。

ダ・ヴィンチ研究の集大成

カーメン・バンバック(メトロポリタン美術館キュレーター)著、『レオナルドダヴィンチ再発見(Leonardo da Vinci Rediscovered)』 つ、遂に出ました『Leonardo da Vinci Rediscovered ( レオナルド・ダ・ヴィンチ 再発見)』。 世界的権威のひとり、ニューヨークメトロポリタン美術館キュレーター、カーメン・バンバックが、24年間の研究成果を結集させたすごい本です。4巻本、2350ページ! ニューヨークタイムズでは、ベストアートブックス2019年の一冊として選ばれていました。現在、パリルーブル美術館とロンドンナショナルギャラリーでダ・ヴィンチ没後500年記念展がそれぞれ行われていますが、そのカタログを合体させたよりも価値が高いと絶賛しています。 いまだに真贋が議論になっている『救世主(Salvador Mundi)』についても、科学的調査に基づいて書かれていて興味津々です。 イェールの大先輩である著者の偉業を心から称えたいと思います。 ゆっくり読んでからレビューします。

良い病院のアート

久しぶりに都内の大病院のひとつに行ったのですが、あまりの混雑ぶりに圧倒されました。広い待合室にもかかわらず、空席はまばらでした。予約があっても、30分以上待つのは普通だそうです。 待ち時間が長かったからといって、効果的な読書やパソコン作業ができないのが、病院という場所ではないでしょうか。 もちろん病気への心配もありますし、医師にどのように説明しようかを頭の中でリハーサルしたりして、落ち着かない気分だったり、ぼーっとしたり、本体の自分というわけにはいきません。 最近のデンマークの研究で、患者へのアートの効用が実証されています。 ■待合室の患者の満足度が向上する ■治療効果も上がる(入院期間の短縮、痛みの許容度など) スペンサー・フィンチ、夏山へ行く (2017)、 クリーヴランドクリニック、Courtesy of James Cohan Gallery. Photo: Steve Travarca. artnet.com でも、いったいどんなアートが患者にとって最も有益なのでしょうか。 この点に関しては、まだ一致した見解はありません。ただ 風景画が、 不安な心情や弱った体をいたわるために有効なことは間違いないでしょう。 キャサリン・オピエ、中間地点 (2010/11). ©Catherine Opie, courtesy Regen Projects. Photo: Neil Lantzy. artnet.com…

ダ・ヴィンチ没後500年を称える美術展

レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年(2019)に、世界各地で生前の偉業を称える壮大な美術展が開催されました。その主なものを挙げてあります。 真作として世界的に認められている15の絵画作品のうち、いずれかに触れられるまたとないチャンスでした。 Leonard da Vinci: A Life In Drawing クィーンズギャラリー、バッキンガム宮殿 2019年5月24日〜 2019年 10月 13日 `レオナルド・ダ・ヴィンチ、分断された頭蓋骨、1489、イギリス王室コレクション Leonardo da Vinci: A Mind in Motion 大英図書館、2019年6月7日〜 2019年 9月8日 ダ・ヴィンチの3つの手稿:アランデル手稿、フォースター手稿、レスター手稿に焦点を合わせた展覧会です。手稿について詳しくは、Resource を御覧ください。 Leonardo da Vinci's the…

Da Vinci’s Notebooks

レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿 Leonard Da Vinci's Notebooks ダ・ヴィンチは、1478年から死の直前までメモ、走り書き、スケッチ、図を書き留めていました。21の手稿、合計約4100シートと断片が現在まで保存されています。 それぞれのシートは、2ページを構成します。また2ページは、フォリオとして同じ番号をつけ、表と右側、裏と左側でそれぞれrecto、versoと分類することがあります。 絵画についてだけでなく、建築、機械工学、工学、解剖学、鳥の飛翔などの広いトピックについて、ミラーライティング(鏡文字)という左右反転させた方法で書かれています。 その大部分は、近年のデジタル化によってオンラインで閲覧できるようになりました。タイトルをクリックして覗いてみてください。 アトランティコ手稿(Codex Atlanticus)、1478〜1518年頃、 アンブロジアーナ図書館、ミラノ 12巻、1119シートから成る最大で、最も重要な手稿と考えられています。数学、幾何学、植物学、動物学、軍事技術、天文学など広範囲の領域をカバーしています。 ダ・ヴィンチの死後、散逸していた手稿は、彫刻家ポンぺオ・レオーニ(1533-1608)によってアトラス(地図帳)の大きさに製本されたました。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、アトランティコ手稿第1巻表紙装丁、アンブロジアーナ図書館、ミラノ アランデル手稿 (Codex Arundel)、1478〜1518年頃、 大英図書館 主に機械工学や幾何学について書かれた283シートから成ります。 17世紀前半に購入した第2代アランデル伯爵トーマス・ハワード (1595-1646) にちなんで名づけられました。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、光学に関するメモとダイヤグラム、アランデル手稿、1478-1518, 大英図書館 フォースター手稿 (Codex Forster)、1487〜1505、ヴィクトリア&アルバート博物館蔵 幾何学、機械工学、水力学などについて書かれたフォースターI〜III(それぞれ55、160、89シート)と3巻から成ります。 1860年代に所有していた著者、歴史学者ジョン・フォースター(1812-1876)からビクトリア&アルバート美術館に遺贈されています。…