ダ・ヴィンチ 未完の『荒野の聖ヒエロニムス』はいつか絶対に観たい 06/10/202109/29/2023 ダ・ヴィンチ作品の真贋には、さまざまな議論があります。 その中で、この『荒野の聖ヒエロニムス』は未完成にもかかわらず、真作であることを疑う余地がない数少ない作品のひとつです。なぜでしょう? この作品にはダ・ヴィンチしか描くことのできない独自性が詰まっているからです。 もしも完成していたら、ダ・ヴィンチ以外にも多くの画家たちが手がけた『荒野の聖ヒエロニムス』の中で、異彩を放つ圧巻の作品になってことは間違いありません。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『荒野の聖ヒエロニムス』、103 cm × 75 cm、1482年頃、油彩、テンペラ、パネル(クルミ材)、バチカン美術館、バチカン ※この『荒野の聖ヒエロニムス』を含むダ・ヴィンチの絵画全作品が、「ダ・ヴィンチの5つの部屋」でご覧いただけます。ルネッサンスの臨場感をお楽しみください! バックグラウンド この作品が知られるようになったのは、19世紀アートコレクターで、ナポレオン・ボナパルトの叔父であるフランス聖職者ジョゼフ・フェッシュ(1773〜1839)のコレクションになってからのことです。 ポプラ材パネルに描かれたこの絵は、異なる場所で5分割された状態で発見されました。どうしてバラバラになったのか、そのいきさつについては分かっていませんが、奇跡的につなぎ合わされて蘇りました。 ダ・ヴィンチは、この作品を死ぬまでずっと手放さなかったのかもしれません。というのも、1525年の時点では、弟子サライ(ジャン・ジャコモ・カプロッティ)の所有物リストに2点の聖ヒエロニムスの絵画が記録されていて、そのうちの一点である可能性が高いからです。 作品の概要 題材 聖ヒエロニムス(347年頃 〜419/420年、記念日9月30日)は、西洋における4人のキリスト教の父(他は、アウレリウス・アウグスティヌス、アンブロジウス、グレゴリウス1世)のうちのひとりです。 また、聖書をギリシア語とヘブライ語から、ラテン語に翻訳しました。20世紀半ばまでカトリック教会における正式な聖書として知られるウルガタ聖書です。 『荒野の聖ヒエロニムス』は、ヤコブス・デ・ウォラギネ(1230年頃〜1298年)著『黄金伝説』の内容に影響を受けた描かれた可能性が高いです。『黄金伝説』とは、キリスト教の聖者たちの列伝で、ルネッサンス期にはイタリア語版だけで異なる11バージョン存在するほどに人気がありました。 ヤコブス・デ・ウォラギネ、『黄金伝説』、1290年頃 Photo:Sailko 聖ヒエロニムスには、ヘブライ語やギリシャ語を研究する「学者としての側面」もありますが、『黄金伝説』が強調したのは、カルキスの砂漠(シリア)砂漠で約4年間隠遁(374〜378年頃)し、壮絶な気候の中で、孤独や欲望と戦う「苦行者としての側面」です。 言うまでもなく、ダ・ヴィンチの『荒野の聖ヒエロニムス』は後者に焦点を合わせています。 内容 ローブをまとっただけの聖ヒエロニムスを画面中央に配し、岸壁とその奥に水面が広がる風景を背にし、左足を跪いています。その表情は、人間の限界をキリストへの献身で克服しようとする壮絶な魂の葛藤が描写されています。 石を握った右手を伸ばしていますが、これは聖ヒエロニムスのイコノグラフィーです。彼が苦行中に、邪悪な欲望を鎮静するために石で胸を打っていたことに由来します。 聖ヒエロニムスと言えば、ライオンと、十字架上のキリストも頻繁に一緒に描かれます。ここでは、ライオンは聖ヒエロニムスの前に横たわり、吠えているようです。十字架上のキリストは、右端にかすかに見えます。十字架上のキリストの左側には、教会があります。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、「荒野の聖ヒエロニムス」部分、バチカン美術館、ローマ ライオンは、聖ヒエロニムスがライオンの足に刺さった棘を抜き、治療して以来、共に過ごすようになったという伝説に由来しています。ダ・ヴィンチは実際にライオンを見たことがあり、その身体と尾のしなやかなカーブが確かな輪郭で描かれています。 ここが革新的 構図が斬新 岸壁の2か所からその奥を望む背景、聖ヒエロニムスとライオンの配置が斬新です。『荒野の聖ヒエロニムス』が、数年後に手掛けた『岩窟の聖母』への脚掛けとなっていることは明らかでしょう。岸壁の2か所からその奥を見渡せる背景も、そして中央で跪く聖母も酷似しています。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『岩窟の聖母』、1483〜1486、油彩、キャンバス(パネルから改変)、199 cm…
美術展 ストレスを軽減する美術展 05/21/202105/21/2021 フィンセント・ファン・ゴッホ、『アルル近隣のアイリスのある草原』、1888年5月、油彩、キャンバス、54 X 65cm, CR: Van Gogh Museum, Amsterdam 美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」が大盛況 ヒューストン美術館で開催されている美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」(6月20日まで)が、大人気となっています。 ホックニー作品の一部は、ロンドンローヤルアカデミーでも美術展「ノルマンディーの春の訪れ」(5月23日〜9月26日)でも公開されることになっています。しかし、すでにチケットは売れ切れとなっている状況です。 身体が自然を求めている 自然の中を15分散歩しただけで、ストレスホルモンであるコルチゾールが下がります。ですから、リモートワークの合間に行っていただくのは有意義です。 それに加え、たとえスクリーン上であっても、自然を描いた絵画に触れていただくのは健康上優れています。 なぜでしょうか? まず、絵画を観察するだけでコルチゾールが下がったという研究があります。また、人間は、木、植物、あるいは緑を見れば、脳は反応して、かつて自然に触れたときの記憶と統合して解釈をすることができるからです。 自然の解放感や爽快感や、緑のみずみずしさを体感してストレスを軽減できるというわけですね。 試してみると… 実際に、美術展「ホックニーとファン・ゴッホ:自然の喜び」で試してみると感じていただけると思います。 残念ながら、ホックニー作品は著作権の関係でこのページには出せないのですが、美術展リンクから入って、左上のホックニーの絵画「Woldgate Vista」をクリックいただくと、素晴らしい作品群が拡大してご覧いただけます。 いかがでしょうか。おそらく、自然や色彩に脳が反応して、自分自身が自然に入り込んでいるかのような気分になっていただけるでしょう。 今週もお疲れさまでした。良い週末をお過ごしください!
書籍 『魂の経営』と『両利きの経営』 05/13/202112/02/2022 コロナ禍の政府の動きを見ながら、「日本のリーダーシップは大丈夫か?」と感じずにはいられない今日この頃ではないでしょうか。 今回は、「不透明な事態のリーダーシップはどうあるべきか?」という、今まさに旬なトピックについて教えてくれる2冊の書籍を共有したいと思います。 結論から申し上げますと、知識や経験だけではダメで、やはり「知覚力」が問われるのです。 富士フィルムはいかに危機を乗り越えたか? この2冊に共通するのは、富士フィルムホールディングスのサクセスストーリーです。 『魂の経営』の著者は、現富士フィルムホールディングス代表取締役会長、古森重隆氏です。ご存知の方も多いと思いますが、同社の大改革の立役者です。今年6月には、退任して最高顧問となる予定です。 Photo: Amazon Photo:fujifilm.com 古森氏は、フィルム産業低迷期の始まりであった2000年に社長に就任して医療・製薬・液晶分野を開拓し、成長を牽引し続けた人物です。 その一方、フィルム産業でライバルだったコダックは、ちょうど古森氏が社長就任した頃から、みるみると衰退していきました。そして遂に、2012年に倒産処理手続きに至っています。この2社を比較すると、当時の危機の大きさと古森氏の手腕の凄さは簡単にご想像いただけるでしょう。 『魂の経営』は、そのキーパーソンである古森氏自身の回想録です。経営手法の他、心情や信念にも踏み込まれています。 他方、チャールズ・オライリー(スタンフォード大教授)&マイケル・タッシュマン(ハーバード大教授)著『両利きの経営』は、経営学的視点から、富士フィルムとコダックの戦略の差にフォーカスして書かれています。 古森氏の主観、研究者の客観的ビジョンを並べて読むと、危機の乗り越え方がより深く理解できて面白いです。 Photo: Amazon しっかり知覚してから土俵に立つ 不透明な事態で成功するためには、もはや知識とか経験の比重は少ないという事実も浮かび上がってきます。 なぜならば、スピーディーに変化する世の中では、自分の脳だけで判断しても役に立たないからです。その大前提として、「何を観るか」がどうしても問われます。 富士フィルムが、PDCA(Plan, Do, Check, Action)ではなくて、STPD(See, Think, Plan, Do)を重視しているのは、こうした理由によるのです。 直観とは知覚の賜物 さらに古森氏は、リーダーには、マッスル・インテリジェンスが必要と言います。 「やると決めたら、スピーディーにダイナミックにやる。.....中略.....火事などの災害に見舞われられたときに、どの方向に、どれくらいの速さで走って逃げれば逃げ切れるか。そんなことは教科書には書いていないし、学校の成績とも関係がない。そういう状況で切り抜けられる人と、そうでない人の差は、インテリジェンスの差ではなく、本能・直感の差である」 この「直感」と書いていらっしゃいますが、ビジネスの決断の話なので、おそらく「直観」の方を意図しているものと思います。眼の前の状況を観察しながら、それが脳の中で統合されて直観がふっと舞い降りてきます。この時は、それまで自分が知覚してきた蓄積(いわゆる知識)が功を奏します。…
イベント 仕事で活きる、教養読書 ー科学・技術・工学・アート・数学のあらゆる分野から学ぶー 04/07/2021 来週火曜日、株式会社ヤプリのイベントに登壇いたします。アート部門16:00-16:50です。 このイベントですが、STEAM(Science 科学, Technology 技術 , Engineering 工学, Art アート, Mathematics 数学)になぞられて開催されます。 そうなんです!21世紀の人材のために必須の教育科目である5分野の専門家が、最新著書を紹介していきます。基調講演である東京大学名誉教授である早野龍五先生を加えますと、6冊分の知識が身につくという粋な催しとなります。 個人的には、京都女子大学 山岡俊樹先生による「デザイン人間工学に基づく問題解決とサービスの構築」がとても楽しみです。 ところでちょっと前までは、STEM(Science, Technology, English, Mathematics)と言われ、それがSTEAMと変わり、現在では、読解力や書く力(Reading と Writing)が加わり、STREAMに着地しています。確かにコロナ下では、読解力、書く力のパワーが、コミュニケーション能力の一環として鮮明化しています。 その一方、「アートは本当に必要なのか」という疑問は後を絶たないのが事実です。残念ながら...。 というわけで、このイベントでは「これからの未来にもアートが重要な理由」についても力説いたしますので、ご関心のある方はぜひ覗いてみてください。 お申込みはこちらからできます。
アート… 『モナ・リザ』はなぜ名画なのか?Part I 03/09/202109/29/2023 世界一有名な絵画と言えば、やはり『モナ・リザ』。そして、世界一高価な絵でもあります。 パリのルーブル美術館では、毎年約1000万人に観覧されています。また、世界一高額の保険査定8億2千万ドル(日本円で約1066億円)がつけられる名画中の名画としての地位を確立しています。 でも実際のところ、あまりにもおなじみ過ぎて、よく観たことがないという方も多いのではないでしょうか。 そこでダヴィンチ研究所としては、その名画たる理由をここにまとめておきましょう。ではまずは絵をじっくりと観てください。 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『モナ・リザ』、1503年より制作開始、77 cm × 53 cm、油彩、パネル(ポプラ材)、ルーブル美術館、パリ ※この『モナ・リザ』を含むダ・ヴィンチの絵画全作品が、「ダ・ヴィンチの5つの部屋」でご覧いただけます。ルネッサンスの臨場感をお楽しみください! 作品の概要 背景 この作品は、『ラ・ジョコンダ』または『リサ・デル・ジョコンダ』と呼ばれることもあります。前者は「ジョコンダ婦人」という意味で、後者はこの女性の名前をということになります。 ダ・ヴィンチの死後、弟子サライ(ジャン・ジャコモ・カプロッティ)が所有しており、彼の所有物リストには『ラ・ジョコンダ』と記載されていました。 『モナ・リザ』という呼称のモナは、madonna (マドンナ)の短縮形でイタリア語では通常 monnaと綴られます。英語では一般的には、mona となっています。 では、リサ・デル・ジョコンダ(1479〜1542)とは、どんな人物だったのでしょうか? シルク商人フランシスコ・デル・ジョコンダの2番目か3番目の妻です。ダ・ヴィンチがこの作品の依頼を受けることになったのは、ダ・ヴィンチが、ジョコンダ家の礼拝堂があったサンティッシマ・アヌンツィアータ教会に滞在した1500年にフランシスコと出会ったからではないかと考えられます。 サンティッシマ・アヌンツィアータ教会、フィレンツェ、イタリア Photo: Max Ryazanov (17 September 2013). ダ・ヴィンチが描き始めた1503年10月の時点で、彼女は24歳、結局彼は最期までこの作品を手放すことなく死を迎えた時に、彼女は40歳ということになります。彼女は、夫妻の子供たち6人のうち、5人の母でもありました。 かつては、『モナ・リザ』の制作年代とその人物についての議論がありましたが、2005年に決定的資料が発見され、もはやその2点については疑う余地がなくなっていますのでご注意ください。 ここが革新的! 異次元的テクニック 『モナ・リザ』は、斜め前を見ている座った姿勢のジョコンダ婦人を、手まで含んで半頭身を描いた肖像画です。 ただし、それだけの肖像画ですと、美術史上のレボリューションとは言えません。なぜならば、すでに前例があるからなのですね。 ハンス・メムリンク、バーバラ・ヴォン・ヴランデンバーグの肖像、1480年頃、37…
ビジネスと知覚 世界初!ビジュアルIQ®アセスメント NTT DocomoとArt and Reasonとのコラボ開始しました 02/02/202102/18/2022 この複雑で、不透明な世界では、「何に目を向け、どう解釈するのか」が重要です。 世界を眺める時、データを読む時、調査する時、あるいはチームビルディングなどでは、欠かせない基盤となります。 その「観る力」と「解釈する力」を測定できるのが、当ダヴィンチ研究所が開発したビジュアルIQ®アセスメントです。 この度、NTT Docomo と アートアンドリーズンが運営しているArt Scouter でも取り扱いが始まりました。 プレスリリースは、コチラです。 ビジュアルIQ™アセスメントができること 自分の内なる観察・解釈・思考する力が客観的に分かる 絵画をツールとしたトレーニングの進捗が視覚化できる オンラインで15分で完了、結果は営業日3日以内に届く※ 現時点では、企業・大学・病院にてグループのお客様のみにご提供しております。 詳細、お申込みは:contact@davinci-inst.org までご連絡ください。 ※パソコンとインターネット環境が必要となります。
ビジネスと知覚 緊急事態とイノベーション 01/14/2021 ちょうど『知覚力を磨く』を執筆していた時、出張先だったニューヨーク郊外に数か月のあいだ足止めされました。突然、新型コロナウィルスが猛威を振るい始めたので、日本へ戻るのが危険だったからです。 ニューヨークの惨状がすぐ隣で起こっていたのですが、大きな救いだったのが、より便利な世の中になっていくのを、眼のあたりで観察できたことでした。 実に緊急事態下で、イノベーションは超特急で生まれていきました。 例えば、 ■2時間以内の食料品エキスプレスデリバリー 食品を選ぶパーソナルショッパー photo:www.instacart.com あの広い米国で食料品を2時間以内に届けるサービスが可能になったは驚きでした。それも大都市だけではなく、郊外でも。これは、イノベーションと言わざるを得ません。 かつてはアマゾンでさえも数日かかっていたことを、アマゾンはもちろん、地元の中小規模ストアでも、インスタカートとつなげることで最速でやり遂げたのです。 人々をハッピーにしただけでなく、一か月で30万人もの雇用を創出しました。 ■ボディガードアプリの誕生 ジェームス・ボンドを演じた歴代男優たち photo:regmovies.com 新型コロナに加えて、大統領選挙に関連した不穏な状況で、大都市は動揺と不安に包まれていました。そこで生まれたのが、ボディーガードアプリ、bond (ボンド)です。その名前はもちろん、あのジェームス・ボンド(James Bond)に由来しています。 公認ボディガードをつけてくれたり、安全な車を配車してくれたり、外出時は、目的地に着くまでヴァ―チャルで監視してくれます。警察へもクリックするだけでつながります。 これ以外にも、注文しておけば店舗の横に車をつけて商品が手に入るカーブサイド・ピックアップや、インターネットを使用しない高齢者が助けが必要な時にレッドサインを表示するといったアナログ的イノベーションなどまでキリがありませんでした。 ところで、14世紀にヨーロッパ大陸の人口の3分の一を奪った黒死病(ペスト)は、直接的にも間接的にも文化が隆盛を極めたルネッサンスへと導いたと言われています。 ピーテル・ブリューゲル、『死の勝利』、1562年頃、117 cm × 162 cm、油彩、パネル、プラド美術館 いろいろな理由があります。しかしそれまで当たり前だと信じていたことに疑問を抱き、改めてありのままの世界を観ようとし、知覚力を最大限に発揮したことが基本にあります。 それによって、労働力が効率化し、医療医薬が向上し、教育も多様化しました。観察によって創造力が活性化し、世界はリフォームされて素晴らしい進化を遂げたのです。 日本でも周りを見渡せば、非接触のための工夫が続々とお目見えしていますよね。その中のいくつかは新型コロナが終息しても残っていく勢いがあります。 人間の知覚力という土台がイノベーションを育む限り、パンデミック後にはより明るい世界がやって来ることを信じずにはいられないのです。
ダ・ヴィンチ ウィトルウィウス的人体図を探る 12/24/202009/29/2023 レオナルド・ダ・ヴィンチ、『ウィトルウィウス的人体図』、1490年頃、34.3 cm × 24.5 cm、アカデミア美術館、ベニス 保存上の理由から、6年に一度、わずか2週間ほどしか展示されないデリケートな作品です。 2019年ルーブル美術館で開催されたダ・ヴィンチ没後500年を記念する展覧会では、文化遺産保存グループがイタリアからフランスへの移動に耐えられないとして抗議したため出品が危ぶまれましたが、最終的には許可されました。 2019年ルーブル美術館、パリで展示されたレオナルド・ダ・ヴィンチ、『ウィトルウィウス的人体図』www.practicaespanol.com 作品について ドローイング部分 『ウィトルウィウス的人体図』は、「人間の普遍的なプロポーション」をビジュアル化したものです。 成人の裸の男性が、両手、両足のポーズを変えると、正方形と円のどちらにも収まるように描かれています。 30代だったダ・ヴィンチ自身ではないかという説もありますが、強い根拠があるわけではありません。 オフホワイトの紙に、ペンを使って茶色のインクで描き、鉛尖筆(lead point)が使用された部分には筆で茶色の滲みをつけています。他に、ピン、カリパス、定規、コンパスも使用されています。 テキスト部分 ドローイングの後に、その上下に、テキストをミラーライティング(鏡文字)で書き込んでいます。鏡文字とは、左右を反転させて書かれた文字です。 このテキストは、古代ローマ時代の建築家/軍事エンジニアであるウィトルウィウス( 紀元前80–70 年頃 〜 紀元前15 年以降)の著書『建築論(De architectura libri decem)』第3巻の内容の一部をパラフレーズしたものです。 ■上部テキスト レオナルド・ダ・ヴィンチ、『ウィトルウィウス的人体図』、上部テキスト部分 建築家ウィトルウィウスは、建築に関する著書の中で人間の身体のサイズは生来的に次のように配分されていると述べる。 4本の指は手の平の幅、手の平の幅4つ分は、1足の長さ、手の平の幅6つ分は、キュービット(中指の先端から肘までの長さ)に等しい。 キュービット4つ分は、身長と等しい。そしてキュービット4つ分は、歩行の1ユニット(3ステップ)に等しい。手の平24個分が、身長となる。こうした割合を、彼は建築物にも使用している。 もしも足を大きく広げると、身長はその14分の1低くなり、腕を広げて中指が頭の頂点レベルに挙げると、手足の中心はおへそということになり、足の間の空間は、二等辺三角形である。 ■下部テキスト レオナルド・ダ・ヴィンチ、『ウィトルウィウス的人体図』、下部テキスト部分 人間の広げた腕の長さは、身長に等しい。…
コレクション & オークション クリスティーズでの夢のようなオークションとその結果 12/07/202001/10/2021 コロナ禍による経済的ダメージは、世界中の美術館を襲っています。 スタッフ解雇という暗いニュースが出る一方、ルーブル美術館の資金集めの方法には脱帽です。クリエイティビティは、ギリギリの苦境を救うのです。 ルーブル美術館、パリ ところで、ルーブルはどんな方法で資金集めをしようとしているのでしょうか? クリスティーズに、他では絶対に入手できない、ルーブルならではの一品をオークションに出しています。その中でも、とりわけ魅力的な3つをご紹介しましょう。 Lot 9:『モナ・リザ』をじっくり観られる あの『モナ・リザ』をケースから出してプライベートで観察できるというまたとない機会です。そもそもいつもケースに入っていますし、いつも人だかりができているため、ほとんど観ることが不可能な名画と言えるでしょう。 それも、ルーブル美術館館長であるジャン=リュック・マルティネズと一緒です。落札者は、同行者を連れていっても良いそうです。フランス語ができれば、なお楽しそうです。 本日12月7日時点で、1万ユーロ(日本円約126万円)となっています。 その結果ですが、日本円約1008万円で落札されました。(追記) レオナルド・ダ・ヴィンチ、『モナ・リザ』、1503〜1507, 1517 Lot 6: 好きな絵の時計を作ってくれる なんと、スイスの高級時計メーカー、ヴァシュロン・コンスタンタンが、ルーブル美術館所蔵の好きな絵で世界で一点ものの時計を完全オリジナルで作成してくれます。 絵画好き、時計好きにはたまらないチャンスに違いありません。 本日12月7日時点で、11万ユーロ(日本円約1386万円)と人気です。 その結果ですが、日本円約3528万円で落札されました。(追記) www.vacheron-constantin.comより Lot 7: カリアティード広間でプライベートコンサート ギリシャ・ローマ彫刻が並ぶカリアティード広間で、あなたと同行者だけのためにコンサートを開催してくれます。 この広間は、かつてフランス国王のレセプション広間として使用されていた場所です。年末年始に、格調高い雰囲気を約束してくれることは確実ですね。 本日12月7日時点で、9000ユーロ(日本円約 113万円)となっています。 こちらの落札額は、日本円約530万円でした。(追記) 他にもパリ、ランス、アブダビにある3つのルーブル美術館を巡るプライベートツアーなど、まさに一生の一度の機会がいろいろと出品されています。 ゴージャスな経験と資金調達の一石二鳥。どんな高値で落札されるのかが楽しみです!