相次ぐ絵画修復ミスが痛い

美術館で働いていた頃、修復室は神聖な領域のように感じました。 バルトロメ・エステバン・ムリーリョ、『無原罪懐胎』、1660 〜 1665年、206 X 144 cm、プラド美術品 なぜなら、世界に一点しか存在しない美術品、時には神の化身のような作品に触れていくからです。 現実的にも、修復室はいつもきちんと整理整頓されていて、修復士は静寂の中で、絵画の1平方センチあたりに長い時間をかけて加筆していました。 何十年の経験があったとしても、決して王道があるわけではなく、個々の作品の状態を鋭い観察眼で観ながら判断しなければならない緻密な作業です。 上のバロック画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作『無原罪懐胎』の複製画は、スペインで家具修復士の手を経て、その聖母マリアの顔は無残な状態になってしまいました。費用は、1200ユーロ(約14万5千円)でした。 バルトロメ・エステバン・ムリーリョ、『無原罪懐胎』複製画の修復 (c)Europa Press もう元には戻せないほどに、完全に別物です。 修復歴30年のキャリアを持ち、16〜20世紀絵画保存に関わってきたリサ・ローゼンは、次のように話します。 「歯の治療に木工所に行ったのと同じ…でも修復士の気持ちは分かるわ。もう少し、もうちょっとと思いながら、やり過ぎてしまった」 「修復士は原画の筆使いを一筆一筆真似なければならないの。自我は忘れなければならない」 スペインだけではなく、日本でもある有名な鎌倉時代の絵が激変してしまったことが話題になったことがあります。その絵も、やり過ぎたようで、ベタっとした厚塗りになっていました。 いかに自我を押さえるか。修復の仕事は奥が深いことこの上ないです。