- 37作品中28作品が展示!
2023年見逃せない美術展のひとつが、今、アムステルダム国立美術館で開催(2023年2月10-6月4日)されている「フェルメール展」です。同画家の展覧会としては、28作品が並ぶ史上最大規模です(前展覧会では、23作品でした)。
ヨハネス・フェルメールは多作の画家ではなく、生涯で40-50作品制作されたと考えられています。そのうちで現存しているのが、37作品(真贋が明らかでない2作品を含む)。今回そのうちの28作品が一同に会されるのは、当館絵画・彫刻部長Pieter Roelofsの並々ならぬ努力のおかげでしょう。
残りは9点ですが、イザベラ・スチュアート・ギャラリー所蔵だった『合奏』は1990年に盗難にあって以来戻ってきていないため、この展覧会+あと8点見れば現存作品すべて網羅できることになります。
ちなみに、アムステルダム国立美術館の所蔵作品は4点です。また、この展覧会でコラボしたマウリッツハイス美術館は、あの有名な『真珠の耳飾りの少女』を含め3作品を所蔵しています。
ご出張、旅行でオランダ方面に行かれるご予定のある方は、ご検討の価値がありそうです。『真珠の耳飾りの少女』は、3月30日までの公開とのことですので、目的の絵画が定まっている方は事前にご確認ください。※出品リストは、こちらのブログが詳しく挙げてくださっています。
チケットは、こちら。※完売しても再販したりしているので、一時的に完売でもまめにチェックしてみるといいかもしれません。
- 近年、続々と出てきた面白い発見
アムステルダムへの旅行を計画している方も、そうでないフェルメールファンの方も、最近の発見は鑑賞の手引きとなりますので、ここにまとめておきましょう。
■『窓辺で手紙を読む女』
昨年、東京都美術館で 『窓辺で手紙を読む女』(ドレスデン国立古典絵画館所蔵)をご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。2017年の調査で発見された画中画のキューピッドの存在を、修復を経て実際に眼にするのは感動でした。厚い膠を丹念に取り去った修復の方々に感謝しかありません。
■『赤い帽子の女』と『フルートを持つ女』
ナショナルギャラリー、ワシントン所蔵のフェルメール作品4点のうち、これら2点の真贋は、かねてより議論されていました。両作品とも、キャンバスではなく、小さなオーク材パネルに描かれていたことがそうした真贋論争の理由のひとつでした。
ナショナルギャラリーは、2022年10月から開催されたフェルメール展に備えて科学的調査を実施し、『赤い帽子の女』の方は、真作であると結論づけました。
加えて、新たな発見も発表されました。この女性は最初から女性として描かれたのではなく、つば広の帽子をかぶった男性を女性に変えた痕跡があったのです。
同様に真作が疑われていた次の『フルートを持つ女』ですが、サイズ・パネル・主題・雰囲気といい、『赤い帽子の女』に似ています。
ところが、こちらの方はフェルメール作ではないと結論づけられました。作画方法や画材から、フェルメールは関与しておらず、彼にゆかりのある人物(例えば、弟子やプロジェクトで関わったフリーランスの画家など)とされたのです。
とは言うものの、フェルメールの現存絵画リストからすぐさま外れるわけではないようです。『赤い帽子の女』との共通点や後世の保存状態から考えると、今後の扱いに関する判断は相当難しいに違いありません。現にアムステルダム国立美術館で公開される28作品の中には、この作品もまだ含まれています。
■『牛乳を注ぐ女』
『牛乳を注ぐ女』ですが、女性の後ろ壁に「瓶ホルダー」、画面右下に「火鉢」を描いた下絵が発見されています。これまでフェルメールは、小さなサイズの作品を精密に描くために時間をかける画家と考えられてきましたが、下絵の筆はかなりスピーディで、その後で技巧的な詳細を施していたことが判明したのです。
■『天秤を持つ女』
右上の画像をご覧いただけると明らかですが、フェルメールは、天秤の位置とサイズを下絵から変更しています。究極にバランスが取れたこの構図は、このような微調整を経て完成したわけです。
■『真珠の耳飾りの少女』
少女のイヤリングが、真珠ではないというのは、フェルメール研究者の中ではほぼ信じられるようになりました。そもそもこんな巨大な真珠が入手できる可能性はなさそうだからです。
先のアムステルダム国立美術館絵画・彫刻部長Pieter Roelofsは、ガラス製の真珠模造品と見ていますし、またマウリッツハイス美術館長Martine Gosselinkは、真珠でもガラスでもなく、フェルメールが鉛白でたった2,3筆でいとも簡単に描いた創作としています。
- 見逃せない革新性
最後にこれだけの作品が並べて鑑賞できるわけですから、こんな貴重な機会に注目しておきたい点を挙げておきましょう。
■光のニュアンス
「光の描き方」は絶対見逃せない点のひとつでしょう。ネット上では、その微妙さはどうしても分かりにくいからです。
フェルメールの光は、陰影と呼ぶにはあまりあるほどに洗練されています。光から、季節・時刻・温度も伝わってくる雄弁さです。もはや絵を超えた、人間の光に対する知覚そのものを描いていると言っても過言ではありません。
次の『地理学者』で、複雑な光のニュアンスを確認してみるとよくわかります。
■フレーミング
コンポジションというよりも、フェルメールの場合、切り取り方が秀逸すぎます。
そしてその中で視点を自由に変えて描いています。まさに映画監督なのですが、見る人にストーリーを想像させるように仕向けてきます。だから、長時間見ていても飽きず、何回見てもときめきながら見ることができるのかもしれません。
『デルフトの小径』は、完璧なフレーミングと精巧な筆致で名画が生まれることを教えてくれます。地味なトピックですし、構成も色使いも最小限なのに本当に驚きです。
見たいけれど足を運べそうにない方も、実は過度に残念がる必要はまったくありません。アムステルダム国立美術館が豪華な動画で解説してくれています。その粋なはからいは感動ものです!