(エリザベス女王が、英国時間2022年9月8日午後にご逝去なさいました。ご冥福をお祈りいたします)
エリザベス女王在位70周年が、世界各地で祝福されました。
彼女の乗馬や犬好きはたびたびニュースになりますが、アートコレクションとの関係はあまり知られていないのではないでしょうか。
実は、世界的なアートコレクションを管理しており、その中にはレオナルド・ダ・ヴィンチの人体解剖図で有名な ウィンザー手稿 も含まれています。
もちろん、彼女の個人的なコレクションではなく、代々承継される王室と国家のためのコレクションなのですが、エリザベス女王自身の名前で管理しているところが珍しい例です。そのため、 著作権には、 Her Majesty Queen Elizabeth II と入っています。
- ローヤルコレクションの規模
例えば、ルーブル美術館の美術品収蔵数は合計約38万、ニューヨークメトロポリタン美術館は合計約150万と言われています。ご参考までですが、日本の皇室コレクションは約9,800点です。
ローヤルコレクションは合計約100万で、内訳を次の通りです:
■絵画 7,600点(なんとロンドンナショナルギャラリーの3倍!)
■水彩画、版画、ドローイングなど 150,000点
■写真 450,000点
■その他(家具、タペストリー、服装飾品、時計、楽器、食器、武器甲冑、本など)
- あのダイアモンドの王冠も!
ダイヤモンドの数は、1,333個で、中心のイエローダイヤモンドは、4カラットあります。4つのクロスパティ―(十字の紋章)の間に、イングランド、アイルランド、スコットランドの国花(バラ、三つ葉、アザミ)がそれぞれ配されています。
この王冠は、1820年にジョージ4世の即位のために作られました。アデレーデ女王以降、作り替えや修復をしながら着用されてきました。エリザベス女王は、1953年6月(即位は1952年2月)の戴冠式へ向かった時を含め、その前後でたびたび着用されています。コイン、切手、お札の中の画像でもおなじみかもしれません。
「国民の税金を使って文句は出なかったのか?」と思われた方のために申しますと、元々材料の部分は借用だったそうで、ジョージ4世の戴冠式の後に返却する取り決めになっていたそうです。合理的な選択ですね!しかし、その後自腹で買い取って承継することにしたとのことです。
- エリザベス女王の貢献
エリザベス女王が、どのくらいアートに関心があるのか、どんなアーティストが好きなのかについては、ほとんど情報がありません。
それに、彼女が50年間に追加したアートコレクションは、わずか20点の絵画だけという調べ(アートニュースペーパーによる)がありますので、熱心な収集家というわけではないようです。
しかしながら実際には、エリザベス女王はアートに大きく貢献しています。
何かと言うと、ローヤルコレクションを世界に開かれたものにしたことです。具体的には、1962年にバッキンガム宮殿の隣に、クイーンズギャラリーを建設して、それ以来今日に至るまで82の特別展を開催してきました。
それに加えて、15か所の王室邸宅を開放して、ふさわしい環境でアートに触れる機会を提供したのも画期的です。
この在位70周年の祝賀ムードの中で、ちょうどクイーンズギャラリーでは、「日本:皇室と文化」という特別展が開催されています。300年に渡る日本とイギリスの外交関係を知るためにも貴重な機会となるでしょう。340ページのカタログも出版されていて、明らかに時期を合わせたキュレーターの熱の入りようが伝わってきます。
特に眼を引くのが、今回の展覧会のハイライトである『サギ蒔絵手箱』です。昭和天皇が、エリザベス女王の即位を祝福した送ったギフトです。
作者白山松哉の代表作と言っていいでしょう。サギの羽の質感が驚くほど忠実に捉えられると同時に、表情が何とも愛らしい一品です。研ぎ出し蒔絵も、精緻を極めています。
参考:https://www.rct.uk/
なお、エリザベス女王については、別投稿『イギリス人エリートのコミュニケーション術』でも書いています。