『カナの婚礼』は楽しさNo1の宗教画かも!?

楽しい宗教画世界第1位かも? さて、質問です。 モデルであり女優であるケンダル・ジェンナーが、深夜に貸し切ったルーブル美術館で見入っていた絵画は何だったでしょうか? Photo: @kendalljenner/Instagramに6月26日掲載 そのひとつが、イタリアルネッサンス後期ベネチアで活躍したパオロ・ヴェロネーゼ(1528-88)の名作『カナの婚礼』でした。元々は、アンドレーア・パッラーディオによってデザインされたベネチア(べニス)のサンジョルジョ修道院の食堂(1560-62)の後壁に描かれていました。 現在は、ルーブル美術館のRoom711に、レオナルド・ダ・ヴィンチ作『モナ・リザ』の対面に陳列されている美術館では最も大きな絵画です。 この作品の魅力は、何と言っても異端児ヴェロネーゼの伝統にとらわれない自由な表現力です。少なくともこれまで私が見てきた数々の宗教画のなかで、楽しさ世界No1ではないかと勝手にランク付けしているくらいです。 今回は、本作品がなぜそんなに自由で楽しいのかを皆さんとご一緒に考察してみたいと思います。 パオロ・ヴェロネーゼ、『カナの婚礼』、1562-63、677 cm X 994 cm、油彩、キャンバス、ルーブル美術館 Photo: wikipedia 楽しい理由1:イエスが起こした最初の奇跡 この作品のストーリーは、イエス・キリストが最初に起こした奇跡で、ヨハネ福音書第2章1-11節に記されています。言うまでもなく縁起が良いトピックであり、美術史を通じて多くのアーティストたちに絵画化されています。そして最高峰はなんと言っても、このパオロ・ヴェロネーゼの作品です。 ヨハネ福音書第2章1-11節の内容をまずご紹介しましょう。 カナ(ガリレア地方ナザレ近く)で催された婚礼に、イエスと母マリア、弟子ら5人が招待されました。結婚披露宴は1週間続くのが慣例ですが、その最中にワインが底つきてしまったことを、マリアはイエスに告げます。イエスは、「あなたと自分になんの係りがあるのか、私の時はまだ来ていません」と返しますが、マリアは従者たちに「イエスが言った通りに行動してください」と告げます。 その場にはユダヤ人の清めの慣習にならい、石でできた水がめが6つあり、イエスは、「これらの水がめを水で満たしなさい」と従者たちに伝えます。従者たちが水かめをいっぱいにした後で、イエスは「少し汲んで婚礼の責任者のところへ持っていきなさい」と指示します。 責任者が味見すると、水はなんとワインに変わっていました。責任者は新郎を呼んで「人は誰も最初に良いワインを提供して、酔いが回った頃には悪いものを出すのに、あなたは今まで良いワインを取っておいたとは!」と歓喜します。 楽しい理由2:イエスの独尊像? というわけで『カナの婚礼』と名づけられながら、実際にはイエスが主人公のストーリーなのです。ところが、ヴェロネーゼ以外の画家による『カナの婚礼』は、イエスを控えめに描写しています。 たとえば、ヴェロネーゼ作『カナの婚礼』よりも半世紀ほど遡りますが、ヘラルト・ダヴィト(1460年頃-1523)は、次のように描いています。イエスは伏し目がちであくまでもゲストとしての参列しています。 ヘラルト・ダヴィト、『カナの婚宴』、1500年頃、油彩、パネル、100 cmX128 cm、 ルーブル美術館 その一方、ヴェロネーゼのイエスは、巨大な絵画の中心で、ひとりだけ真正面向きで凝視する迫力です。この絵の前に立つと、否応なく彼と眼が合ってしまうことになります。このイエスの部分だけ見ると、ナラティブ絵画というよりは、独尊像のような姿です。 パオロ・ヴェロネーゼ、『カナの婚礼』、イエスが座る中心部分 披露宴の主役であるはずの新婦と新郎は、画面の左端に押しやられています。新郎の表情に注目すると、婚礼の喜びがなく、居心地が悪そうにも見えます。…