2023年は、世界各地でヴィンセント・ファン・ゴッホ展がユニークな切り口で開催され、まさにゴッホの年でした。SOMPO美術館開催「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」は、2024年1月21日までですので、まだご覧でない方はまだチャンスがあります!
今年は、アンリ・マチス(国立新美術館とバイエラー財団)、ロイ・リキシュタイン、カスパー・フリードリヒといったコアなファンが多い画家の展覧会が多い印象です。
その中で、アートファンならばほとんどの方が至福の時間を過ごせそうなのが、2つのミケランジェロ展です。どちらもロンドンですが、お近くにご出張・旅行の際に足を伸ばしてみるのはいかがでしょうか。
- ミケランジェロ:最後の30年 大英美術館 2024年5月2日-7月28日

本展覧会のハイライトは、システィーナ礼拝堂の祭壇をカバーするフレスコ画『最後の審判』の下絵(上がその中の一枚)です。『最後の審判』には300体以上の人物が描かれていますが、その一部のスケッチが展示されます。

ちなみにミケランジェロの素描に、どのくらいの価値があるかと申しますと、2022年5月にクリスティーズパリのオークションで、次のドローイングが約2300万ユーロ(当時日本円約31億円)で落札されています。市場に出回る可能性はゼロに近いですが、『最後の審判』の下絵となるとそれ以上の価値がつくことは容易に想像できます。

その他に陳列が予定されているのが、『エピファニア』です。エピファニアは、キリストの顕現を祝う日で、伝統的には1月6日とされていました。この作品は、現存するミケランジェロの2点のカートゥーン(壁画のための実物大下絵)のうちの1点か、あるいは等身大ドローイングと言われています。

この『エピファニア』ですが、そのサイズと紙で傷みやすく、写真を見ただけでもかなりデリケートな状態であることが伺えます。大英博物館が所有したのが1895年で、それ以降修復し続け、2018年に始めた修復を2024年5月に終える予定とのことですが、この作品を見られるチャンスはかなり希少であることは間違いないでしょう。
ミケランジェロは、いくつかの建築プロジェクトを手掛けています。メディチ家のために、デザインしたローレンシアン図書館(1524)、サグレスティア・ヌォヴァ(聖具堂、1520-1533)は、彫刻家としてのこだわりが、さまざまなデイテールに表現されていて、まさに芸術的建築の傑作です。
今回の展覧会では、彼の最大にして最後の建築プロジェクトとなったサン・ピエトロ大聖堂についてのスケッチや資料が観覧できる予定です。引退を考えていた矢先、建築家として正式な教育を受けたことのない晩年の彼に、どんな葛藤があり、いかに創造性を発揮していったかについての貴重なヒントをくれそうです。

- ミケランジェロ、レオナルド、ダヴィンチ:フィレンツェ c.1504 ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ
もうひとつの本展覧会(2024年11月9日-2025年2月16日開催)も、かなりワクワクします。ルネッサンス3大巨匠たちが、フィレンツェで会することになった1504年頃に焦点をあて、お互いへのライバル意識や作品や影響を見ていく構成です。
ミケランジェロとラファエロへの多大な影響が明らかなレオナルド・ダ・ヴィンチ『聖アンナと聖母子と幼児洗礼者ヨハネ』が展示されます。『聖アンナと聖母子』(ルーブル美術館蔵)の準備段階で描かれた下絵と言われていますが、明らかな証拠があるわけではありません。

この下絵を、ミケランジェロの未完成レリーフ『聖母子と幼児洗礼者ヨハネ (Taddei Tondo)』と比較しますと、二人の幼児の構図の類似性が明らかに見られます。

驚くのはまだ早く、さらにラファエロ・サンティ作『聖母子と幼児洗礼者ヨハネ』を見ますと、ダヴィンチとミケランジェロの影響が見られます。当時まだ25歳前後だったラファエロの筆致はまだ固いですが、二人の巨匠作品を絶対見ていて、両方の影響が混在しています。
こんな風に三人の巨匠作品を比較できるとは、非常に贅沢な展覧会になりそうです。

- まとめ
デジタルの画一的な線ばかり見ている私たちだからこそ、人間の流麗な筆致に触れることは眼を肥やします。特にミケランジェロは、人類史上トップクラスの美しい線描を見せてくれますから、彼の唯一無二の手さばきに心からときめいてください。
「ミケランジェロ:最後の30年」に出品されている隠れた名品『パエトンの墜落』についても、別エントリーで書いています。ぜひご高覧ください。