猛暑に観たい!涼しい絵画はこれだ

猛暑のラッシュアワーの電車の中で妄想してしまいました。

クーラーがキンキンに効いた美術館で名画鑑賞をしている自分です。誰もいないので、冷たいタイルのフロアを裸足で歩いていてみたり、ときどき寝転んでみたりと最高にリラックスしています。現実になって欲しかった!

ところで妄想の中の私は、いったいどんな絵を観ていたでしょうか?

今回は、その時思い浮かんだ5作品を共有したいと思います。どの絵も灼熱の暑さにぴったりで、この汗ばむ季節を少し涼しくしてくれるかもしれません。



涼風に吹かれて眠りたい

アルバート・ムーア、『真夏』、1887、油彩、キャンバス、155 x 160 cm、ラッセル・コーツ美術館、ボーンマス、イギリス

一作めは、イギリスヴィクトリア朝の画家アルバート・ムーア作『真夏』です。彼の最高傑作と言ってもいいでしょう。オレンジ色と言ったら、この絵を思い浮かべる方も多いです。

ムーアの特徴は、けだるそうな美しい女性を、豪華な古典的建築を背景として精巧な装飾品とともに描くことです。構図と色のハーモニーが全体的な美しさをさらに盛り上げ、絵自体が装飾芸術品と言っても過言ではありません。この作品は、こうした彼の特徴が極限まで高められています。

その一方、3人の女性の表情に注目するとどうでしょう?決して冷たい表情ではなく、その感情が読めそうです。しかし実際には微妙すぎて読めないようなところが、私たちの興味をくすぐります。

人と議論する必要なく、何も考えず、自然な涼風とともに眠る――このクールダウンの方法、酷暑にはもってこいですね!


山の空気感に触れたい

アルバート・ビアンスタット、『カリフォルニア州シエラネバダ山脈の中で』、1868、油彩、キャンバス、183 x 305 cm、スミソニアン アメリカ美術館

山の澄み切った爽快感を感じたいなら、ハドソン・リバー派の代表画家アルバート・ビアンスタットの作品でしょう。巨大なサイズのキャンバスに、彼が描くアメリカ西部やハドソン川流域の大自然は圧巻で、その前に立つと現実の風景に包まれていると錯覚するほどです。

写真家だった二人の兄の影響と、ビアンスタット自身の写真への興味が、彼の絵画に色濃く影響しています。そのため構図の切り取り・明暗・モチーフの組み合わせが卓越していて、ドラマチックで理想的な景色が眼の前に広がります。

本作品はカリフォルニア州を描いていますが、実際にはイギリスで制作されてヨーロッパ中を巡回し、アメリカへの移住へ関心を誘引したようです。またアメリカでビアンスタットによる風景画は、当時も今も非常に人気が高く、それは自国の雄大な大地への誇りの顕れかもしれません。


冷たい川の流れを感じたい

ジョルジュ・スーラ、『アニエールの水浴』、1882、油彩、キャンバス、201 × 300 cm、ナショナルギャラリー、ロンドン

パリオリンピック2024で、セーヌ川の汚染問題が再三取り上げられていましたが、19世紀のセーヌ川はここまで澄んだブルーだったのです。新印象派で点描技法(補色の小さな点を併置する技法)を創始したジョルジュ・スーラ作『アニエールの水浴』には、アニエールとクールブヴォアの間にあるセーヌ川岸で水浴びする人々が描かれています。スーラ弱冠24歳の時の大作です。

真夏のかすんだ熱い太陽の下、川に入って泳ぐわけでもなく、ただ佇んで川独特の涼感を肌で楽しむ人々の心地よさが伝わってきます。川面の緩いうねりを描写する点描法が実に効果的です。

スーラは、この大作のためにたくさんのドローイングや油彩スケッチを残しています。と言うのも、サロンで発表して自分の名声につなげようと計画していたからです。サロンには拒絶されてその思惑は叶いませんでしたが、完成作品は、セーヌ川の気持ちいい水の一瞬の感触を、美しく記録しています。


海風に吹かれ波の音を聞きたい

ウィリアム・トロスト・リチャーズ、『岩礁に打ち寄せる波』、1887、油彩、キャンバス、71.6 x 112.1cm、ブルックリン美術館

静かな海から、荒れ狂う海まで、さまざまな海の表情を描く比類ない画家が、ウィリアム・トロスト・リチャーズです。

リチャーズも、先のアルバート・ビアンスタットと同じハドソンリバー派です。確かにアメリカのダイナミックな大自然を素材をしている点では共通するのですが、リチャーズの大きな特徴は観察眼に基づいて緻密に写生していたことです。ビアンスタットはすでに述べた通り、アメリカの風景をロンドンで描いていました。

『岩礁に打ち寄せる波』から分かるように構図はシンプルなのです。にもかかわらず、波を知り尽くしていた彼の絵画はいつ見ても驚きと発見があります。余談ですが、かつてリチャーズの絵をじっくり見た時に気がついたのですが、100年以上経っていても修復する必要があまりないくらい画材のクオリティが高かったです。


氷の世界を訪れたい

フレデリック・チャーチ、『氷山』、1861、油彩、キャンバス、164 cm × 285 cm、ダラス美術館

フレデリック・チャーチも、ハドソンリバー派です。ダイナミックな風景を真骨頂とするグループであっても、氷山のようなエキセントリックな素材を選んだのはチャーチだけです。チャーチは、もともと北極探検に関心を持ち、ニューファンドランド島とラブラドール島を巡る北大西洋への航海中に氷山の着想を得ました。

前景右寄り中央に、ちぎれた船の帆先にお気づきいただけるでしょう。これはチャーチが、2年後に描き加えたもので、「人間とのつながりがない絵」というメディアからの批判に答えた結果のようです。北極探検で出かけて行方不明となったイギリス探検家ジョン・フランクリンからのインスピレーションとも言われています。

巨大なキャンバスに、氷山のような大きなモチーフを描くと散漫になりがちです。その点、この作品はチャーチの卓越した構成力をみごとに証明した作品と言えるでしょう。


まとめ

偶然にも5点とも19世紀の作品を選んでいました。実は20世紀の作品も入れたかったのですが、著作権が非常に厳しい画家なのであきらめました。

クラクラするような暑さが続いていますが、少しは涼んでいただけましたでしょうか。

読者のみなさまが、素晴らしい夏休みを過ごされますように心よりお祈りしております!