オランダバロック時代の巨匠レンブラント・ファン・レイン(1606-1669)による名画『夜警』(1642年作、アムステルダム国立美術館所蔵)が、300年ぶりにAIによって欠損部分が復元されました。
復元されたスキャン画像は、オリジナル絵画とともに3か月間(2021年7月〜)特別公開されます。
- 『夜警』とは?
上の画像で物足りない方は、世界で一番解像度が高い『夜警』をご覧ください。
『夜警』と呼ばれていますが、後年のニックネームです。
現在の正式名称は、『フランス・バニング・コック隊長指揮下にある第2市民自警団』(オランダ語: Schutters van wijk II onder leiding van kapitein Frans Banninck Cocq)ですが、元々はもっと長い名称でした。
その名称から推測できるように、主題は、アムステルダムを警備していた市民自警団が出勤する様子です。その隊長が、フランス・バニング・コック(画面中央向かって左の人物)で、副隊長がウィレム・ファン・ライテンブルフ(画面中央向かって右)でした。その自警団は、火縄銃隊でした。
『夜警』というニックネームは、重ねづけらた釉が黒ずみ、夜のシーンと信じられていたことによります。1940年代に劣化していた釉は取り除かれましたが、その名は今日まで継続的に使われています。
- 『夜警』の革新性
こんな大作を、繊細な技巧、秀逸な構図、ドラマティックな明暗の演出で描いた『夜警』は、レンブラント作品の中で間違いなく最高傑作です。
さらなる革新性と言うと、この絵が市民自警団の「肖像画」である点です。
肖像画で思い出すのは、パターンが決まった固いポーズをした人物ですよね。ところが、この絵画では、それぞれの人物がそれぞれのアクションの中で、生き生きとしたポーズと表情で捉えられています。
焦点は、中央の隊長、副隊長ではありますが、その他のすべての人物も個性的に、民主的に描かれている点は見逃せません。
グループの肖像画にこうした躍動する姿を採用したのは、美術史上最初のことでした。
- 『夜警』を襲ったダメージ
『夜警』が400年近くを経た現在まで、その崇高な姿が見られるのは奇跡と言っても過言ではありません。と言うのも、これまで絵画にとっては致命的な出来事に襲われてきたからです。
■1715年、画面の切り詰め
この年、『夜警』は、火縄銃手司令部建物の広い宴会ホールから、アムステルダム市役所へ移動されました。その際、2つのドアのあいだのスペースに入らなかったため、上下左右が切り詰めされました。
他のオプションは考えなかったのかと非常に残念です!
切断箇所は、アムステルダムの画家ヘリット・ルンデンス(1622-1686)が『夜警』を模写していたことにより、判明しています。次の画像で左右と上部は確認できますが、実際には下部も若干切り取られています。
その後は、破壊行為が『夜警』を襲います。
■1911年1月13日 ナイフで傷つけられる
不幸中の幸い、釉の層へのダメージに留まっています。
■1975年9月14日 ナイフで12か所切り裂かれる
ご覧いただけるように、かなりひどい状態であったことが分かります。
■1990年6月6日 酸性の液体が振りかけられる
事件当初は、釉だけへの被害と発表されていましたが、経年的には想像以上のダメージを負ったことが分かっています。
- AIによる復元
AIがおこなったのは、言うまでもなく欠損した箇所を埋めることです。具体的には、3段階のニューラルネットワークを使って、サイズの異なるルンデンスの絵画の情報に頼りながら、レンブラントのスタイルで補うことになります。
最も困難なのは第3ステージで、レンブラントが欠損した箇所を実際にどう描いていたかです。
この部分は、現存するレンブラントとルンデンスの部分を学習させながら、AIに欠損部分のレンブラントスタイルを推測させます。
- 本当にAIでよみがえったのか?
よりオリジナルに近いダイナミックな絵画を確認できることは、素晴らしいことです!最新テクノロジーを駆使したプロジェクトチームの多大な貢献には、感謝の意に堪えません。
ただし、絶対に忘れてはいけない点があります。あくまでも推測されるイメージだということですね。
ルンデンスによる模写、AIのブラックボックスという2つのレイヤーが、レンブラントの真筆の上に乗っているということです。