ルノワールの魅力は「白」と「黒」

もうすでに行かれた方も多いかと思いますが、三菱第一号美術館にて『ルノワール X セザンヌ―モダンを拓いたふたりの巨匠』(2025.5.29~9.7)が開催されています。

展覧会は大好評のようで、すでにたくさんのyoutube等でご紹介されているのでそちらでご覧ください。

ここではピエール=オーギュスト・ルノワールの魅力をさらに理解するために、あまり語られていない彼の「白」と「黒」の魅力に注目してまいりましょう。



典型的な輝く暖かい色

「私にとって…絵画は大切にするべきもので、楽しくて、美しいものでなければなりません、そう、美しいのです!」—ピエール=オーギュスト・ルノワール


ルノワールといえば、輝くような暖かい色調の絵を思い浮かべるのではないでしょうか。

ルノワールは彼自身の言葉通り、美しく楽しい画題――美しい女性・かわいい子供・パーティやダンスなどを楽しむ人々・風景・花――をほとんどの場合で選択しています。

そのために典型的に使用したのが、輝いている暖かい色調です。特に、ピーチ色系のイメージがあるかもしれません。ピーチと言っても、日本の桃の色ではなく、ヨーロッパのピーチの色でオレンジとピンクがまざりあったような色と、そのグラデーションです。


ピエール=オーギュスト・ルノワール、『ひなぎくを持つ少女』、1889、65.1 x 54 cm、油彩、キャンバス、メトロポリタン美術館

ルノワールにとって、ピーチ色は美しさ・楽しさ・官能性であり、紅潮した顔や裸体にも使われました。

上の『ひなぎくを持つ少女』は、印象派の典型的な筆触分割というよりは、かすかな羽のような筆致が溶け合って輝いているような独特な世界を生み出しています。夢の中でこの少女と出会っているような感覚かもしれません。これが、ルノワールの世界観ですね。もう一作品、見ておきましょう。


ピエール=オーギュスト・ルノワール、『女優ジャンヌ・サマリーの肖像(白日夢)』、1877、56 cm X 47 cm、油彩、キャンバス、プーシキン美術館

こちらは、ルノワールの家の近くに住んでいた若き女優ジャンヌ・サマリー(1857-90)です。こちらは、ピーチ色の背景ですが、肌はゴールドとなっています。発色するようなゴールドも、ルノワールが大好きでした。

この作品は、第3回印象派展に出品しましたが、リアリズムに欠ける女優のプライベートな一面は残念ながら不評でした。


真珠のような多彩な白

ピーチやゴールドはルノワールの美しく楽しい絵画にはぴったりなのですが、その一方、「白」と「黒」はワンランク上の豪華さと個性を与える色です。まずは白から、見てまいりましょう。


ピエール=オーギュスト・ルノワール、『帽子の女』、1891年、
56 x 46.5 cm、油彩、キャンバス、国立西洋美術館

白って、奥深い色です。原研哉さんの書籍『白百』には100種類の白が書かれていますが、ペンキを塗っても、絵を描いても、同じ白はできなかったりします。

黄み、青み、グレーっぽいなどと数えきれないバリエーションが作れるからです。また光や、周囲の色に敏感に反応して人間の見え方も微妙に変わってしまいます。

ルノワールの白のドレスを見ると、彼は白の達人だということがよくわかります。光沢のある白のドレスに、周りの色が自然に映っています。この絵を実際に見ていただくと、まるで真珠に周囲の色が映り込んだように美しいです。もうひとつ白の作品、見ておきましょう。


ピエール=オーギュスト・ルノワール、『踊り子』、1874年、
 142.5 cm X 94.5 cm、油彩、キャンバス、ナショナルギャラリー、ワシントンDC

白に水色が混ざったドレスは、本当に眼を見張るほど美しいです。

バレリーナの描写を言えば、エドガー・ドガが有名ですが、かなり異なります。ルノワールのドレスは光沢があり、跳ね返り力がある羽のようです。まさに天使の装いとはこれでしょう。


スタイリッシュな黒

白だけでも十分に豪華なのですが、そこに黒が加わると、一段上のスタイリッシュな気品が生まれます。他の画家には真似できない領域です。

ルノワールは次のように言っていました。

「ある朝、私たちのひとりが黒から飛び出しました。それが印象派の誕生でした。」—ピエール=オーギュスト・ルノワール

そうなんです!印象派は黒を多用しませんでした。でもルノワールは、黒にこだわり、その役割を明らかに認識していました。そこが、印象派でありながらも、クラシックなルノワールの魅力なのです。






ピエール=オーギュスト・ルノワール、『ルグラン嬢の肖像』、1875年、
81.2 cm X 59.6 cm 、油彩、キャンバス、フィアデルフィア美術館

ルグラン嬢(マリー=アデルフィーヌ・ルグラン)は、この時6歳くらい(8歳説あり)でした。通常ならば、「天使みたい」という形容なのでしょうが、ルノワールは、彼女を気品あるレディとして描いています(結婚指輪もしていますしね)。

黒はそのために不可欠なモチーフであるとともに、光沢ある真珠のような白とのコンビネーションによって控えめのモノトーンがとても豪華に見えます。

ルノワールが稼げなかった頃に描いた肖像画のひとつですが、ただ美しい絵であるばかりでなく、少女の心理までいろいろと想像させる深い作品に仕上がっています。


ピエール=オーギュスト・ルノワール、『桟敷席』、1874年、
 80 cm × 63.5 cm、油彩、キャンバス、コートルドギャラリー

ルノワールの「白」と「黒」の魅力が、最大限に込められている作品と言っても過言ではないでしょう。その上、彼の好きなピーチ色とゴールド色もちりばめられています。

ご覧になったことがある方はおわかりかと思いますが、作品自体が宝石かと思うほどに輝いています。白と黒が溶け合っていて発するオーラをまとっているかのようです。

ルノワールの「白」と「黒」は、決してモノトーンではなく、さまざまな色にも見えるのです。また、ドレスのレース部分と、手袋を描く技術力がものすごくハイレベルです。

オペラグラスをのぞく男性を入れた構図も、非常に斬新ですし、この男性の服の「白」と「黒」も丁寧に描かれています。

小さな作品ですが、長時間見ていても全く飽きないまさに傑作中の傑作と言えるでしょう。


まとめ

さて、ルノワールの「白」と「黒」を取り上げてみましたが、いかがでしたでしょうか。

ご紹介した作品は女性の肖像画だったのですが、これら以外でも、白が際立つ作品や、黒がアクセントとして巧みな役割を果たしている名画がありますから、ぜひとも注目してみてください。

さらにルノワールを深く理解するきっかけとしていただけますと幸いです。

ところで、国立西洋美術館(松方コレクション)に所蔵されているルノワール絵画は、名品ぞろいです。海外コレクターたちが、見たくてたまらない絵画ですので、出品されているときは足を運んでみて決して損はないでしょう。夏は暑過ぎるけれど、日本に住んでいて本当に良かった!

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