SOMPO美術館開催「ゴッホと静物画」(1月21日閉幕)、名古屋、神戸、東京を巡回した没入型美術展「ゴッホ・アライブ」(東京展は3月31日まで)のおかげで、ちょっとしたゴッホブームになっている今日この頃です。
さて、『ひまわり』はほとんどの方が知るゴッホの代表作です。レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』、エドヴァルド・ムンク『叫び』と同等なくらい集客力のある名画です。
でも、『ひまわり』により魅きつけられる方が多いのではないでしょうか。実際に「何回見ても飽きない」とか、「見るたびに新たな発見がある」とか、「エネルギーをもらえる」などと聞くことがよくある本当にファンが多い作品です。
なぜでしょうか?
その理由のひとつは、「ごく身近な世界の本質を鋭い観察眼で見抜いていたから」でしょう。
『ひまわり』を少し深堀りしてみるとご納得いただけるのではないかと思います。
『ひまわり』をじっくり観る
ゴッホは、「ひまわり」を画題とした作品を計11点残しています。パリ滞在時(1886-1888)に横たえた枯れているひまわりを4点、都市に疲れ、南仏アルル(1888-1889)に移住して、花瓶に生けたひまわりを7点を描いています。
このうちの1点であるロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵『ひまわり』を観察してみましょう。
咲き具合の異なる15本のひまわりを描いています。つまり、この作品は、花の一般的な美しさというよりは、自然の生命のパターンの描写と言えるでしょう。
さらに近づいて観ますと、ひまわりは自然のパターンが密に刷り込まれた特徴的な花であることを実感できます。次のクロースアップ写真を観ると一目瞭然なのですが、ひまわりは、花弁から、雌しべ、雄しべ、包葉、種まで自然が創り出した驚異的なパターンが連続しています。
ゴッホはフィボナッチ数列に共感していた?!
ここまでのクロースアップで詳細に観察しますと、自然が創り出す神秘的な造形に魅せられてしまいます。
種の部分は、時計回りと反時計回りで2重のスパイラル(対数螺旋)を形成しているのを御覧いただけるでしょうか。そしてそれらのスパイラルの数は、イタリアの12世紀の数学者であるピサのレオナルド(レオナルド・フィボナッチ)が発見したフィボナッチ数列によって決まっているのです。
フィボナッチ数列では、数列3項以降の数字が、その手前2項の和になります。つまり、0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233…というわけです。
例えば標準的なサイズのひまわりであれば、一方向のスパイラル21列、逆方向のスパイラル34列が見つかるかもしれません。絶対に、20列と33列という組み合わせにはならないのです。
自然の本質的パターンを見抜く眼
ゴッホは、ひまわりを連作した理由については語っていませんが、自然の本質的パターンに共感していたことは確かでしょう。そうでなければ、盛りが過ぎて花びらが散ったひまわりの種の部分を何度も描くことはしなかったのではないでしょうか。
生命や、ひまわり固有のパターンといった自然の本質を見抜けるほどに、ゴッホは自然観察に真摯に向き合い、追随を許さないレベルの創造へと昇華させていたのです。
『ひまわり』を本物と間違えたミツバチ
このことを裏づけるような面白い実験が、ロンドン大学感覚行動生態系学教授ラース・チットカらによって行なわれています。ファン・ゴッホ『ひまわり』(先のロンドンナショナルギャラリー所蔵の複製を使用)と他の花の絵画の複製を使って、どの絵にミツバチが最も多く飛来し、着陸するかを調べたのです。
結果は、圧倒的に『ひまわり』でした。チットカ教授らはその理由について、ミツバチが自然の視覚的パターンを持ったファン・ゴッホの絵に引きつけられたためと結論づけています。
まとめ
ミツバチまでも引きつけてしまう『ひまわり』の魅力について共有いたしました。『ひまわり』シリーズの他にも、ゴッホが「自然の本質を見抜いているな」と実感できる絵画はいくつも存在しますので、探してみるとさらにゴッホの偉大さに一層感動させられるでしょう。
ゴッホの例は、ひたむきに観察したことで、肉眼では見えない本質が観えた良い例です。画家の場合は、創造性に直結するので分かりやすいです。アート以外の領域でも同様で、創造性は知覚から始まるので、観察眼は常に磨いておいて損はないことを付け加えておきます。