パリ、ポンピドーセンターで「シュルレアリスム」が開催されています(会期:2024年9月4日-2025月1月15日)。シュルレアリスムの代表的画家――サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、ジョアン・ミロ、マックス・エルンスト、ジョルジョ・デ・キリコなど――の作品ブリュッセルから始まり、パリの後はマドリードから、フィラデルフィアへとツアーする大規模な展覧会です。
というのも、今年は、シュルレアリスム芸術運動の創始者のひとりアンドレ・ブレトン(1896-1966)が1924年10月にマニュフェストを出版してからちょうど100周年となります。
100年経ていても、彼らの斬新さな発想と作品はちっとも色褪せてなくて、むしろ私たちの凝り固まった固定観念をもみほぐすかのように刺激的です。
でもいったい「シュルレアリスム」って何でしょうか。英語読みでは、「シュールレアリズム」で、こちらの方がピンとくる方も多いでしょう。
芸術運動であり、政治的運動であり、世界的に広がったためとても複雑です。そこで、その特徴が超簡単に眼でわかるように代表的作品5点でまとめてみました。
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マニュフェストは現代人に通じる
シュルレアリスムは、精神病を学んだ元医学生で、著述家、詩人、シュルレアリスムの創始者のひとりアンドレ・ブルトン(1896-1966)が書いたマニュフェストなしには語ることができません。
なぜならシュルレアリスムを、文字通りに超現実主義(現実を超えた現実)とだけ取りますと、私たちの理解はとても表面的なものにとどまってしまい残念すぎるのです。
ブルトンは、マニュフェストの中で明確に定義しています:
「(シュルレアリスムは)純粋な状態の心理的な自律性(オートマティズム)であり、それによって実際に機能している思考を話し言葉や書き言葉やその他の方法で表現することを提案する。思考に導かれるのであって、いかなる理性の制御は存在せず、美的概念からも道徳的懸念からも免除される」
ひと言で言えば、理性や美的概念や道徳的懸念に縛られず、個人の心を解放して知的生産性を高めることを宣言したわけです。人間の永遠のテーマなのですが、極度に制約がかかった2つの世界大戦の間で、あえて高らかに声を挙げて、多くのクリエイターたちの支持を得たのは必然と言えるでしょう。
この目標のもと、ブルトンたちに多大な影響を与えたのが、オーストリアの精神科医ジークムント・フロイト(1856-1939)が創始した精神分析です。フロイトは、対話や夢判断や幼児体験などを通して、人間の無意識を引き出して精神状態をより深く理解しようとしたことはご存じかもしれません。
ブルトンたちの興味はそこに重なりました。人間の無意識が隠れた場所――現実・夢・イマジネーション(エロチックなものを含む)・子供時代――からの発見することが、彼らのクリエイティビティを最大化することであり、シュルレアリスムにとって発想の原点となったのです。
代表作で見るシュルレアリスム
サルバドール・ダリは「夢」の写真を手書きした
タイトルから分かるように、夢を描いた作品です。サルバドール・ダリ(1904-1984)は、自らの作品を「手書きの『夢』の写真」と呼んでいました。
海岸に眠っているヌードの女性は、ダリの妻ガラです。ガラは浮遊していて、その下には、ザクロとその周りを飛ぶ蜂が描かれています。ガラの上の部分には、2頭の獰猛なトラがガラに襲いかかろうとしていますが、左の1頭は巨大なザクロから出てきた魚に食いつかれています。ガラには、銃口も向けられています。その右横では、フラミンゴのように足が長く細い象が背中にオベリスク(石から掘り出した四角柱の記念碑)を括り付けて闊歩しています。
夢の中で思考が解放されたダリと、彼の得意な写実的描写が相まって、実に迫力ある作品に仕上がっています。
ジョルジョ・デ・キリコが描くミステリー
イタリア画家ジョルジョ・デ・キリコ (1888-1978) の作品の中で、最も有名なひとつです。彼の絵画の特徴は、ミステリアスな力で満ちている点です。「なぜピンクのゴム手袋が古代彫刻の横に?」「なぜグリーンの球体?」「ここはどこ?」という具合です。
この『愛の歌』は、ブレトンのマニュフェストから10年も前に描かれています。しかし、デ・キリコの現実を超えた夢のような世界観は、まさにシュルレアリスムの理想と言えます。美術評論家ギヨーム・アポリネールに「形而上絵画」と名づけられて絶賛され、シュルレアリストの先駆者として彼らにインスピレーションを与え続けました。
作品の本当の意味は誰にも分からず、見る者が自由に解釈できる楽しい作品でもあります。
「見える」と「見えない」を探ったルネ・マグリット
ルネ・マグリット (1898-1967) は、現実を超えた世界を夢の中にではなく、人間の知覚に求めた画家です。人間やありきたりな事物が、「見せ方(見え方)」によって作り出す幻想性や謎を追求しました。
『恋人たち II』は、すっぽりと顔を白いベールで被われた二人の恋人たちが、部屋でキスをかわすシンプルなシーンですが、どうでしょう?グスタフ・クリムトの『接吻』のように、絵画の主題は、純粋に「情熱的なキス」ではなくなります。この解釈の広がりが、マグリットのねらいです。
白いベールは、マグリットが13歳の時に川で自殺し発見された実母の顔がドレスに覆われていたことから、より深い解釈をすることも可能です。ただし、マルグリット自身は母との関連性を否定しています。
ジョアン・ミロの子供のような純粋な自律性
ジョアン・ミロ (1893-1883) は、シュルリアリストの中では異色の存在で、彼の作品には謎めいた要素は見受けられません。加えて、抽象画を見慣れている私たちにとっては、そこまで「超現実的」に感じられないかもしれません。
しかし、抽象画があまり出回っていなかった1924年のマインドになって見ると、いかがでしょうか。彼の色・形・構成のイノベーションがひしひしと伝わってきます。後世の抽象画家たちに与えた影響は絶大です。
何物にも縛られない無意識が自律的に作り出すファンタジーのような世界(大人にはハードルの高い子供のような創造性)が、ミロのシュルレアリスムの特徴です。
マックス・エルンストの悲しいモンスター
シュルリアリストたちは、究極的に謎めいた、現実からかけ離れた存在であるモンスターに関心を持っていました。たとえば、ホメーロスの詩『イーリアス』に登場するキメラ(ライオンの頭、ヤギの胴体と蛇のお尻が合体した火を噴射する怪物)を、彼らは「力強い異質同体生物」として崇拝していました。
ドイツ出身のマックス・エルンスト(1891-1976) は、鳥と人間のハイブリットのモンスターを、時には味方として、時には敵として描いています。
この『シュルレアリスムの勝利』は、スペイン市民戦争でスペイン共和党が敗戦した直後に描かれていて、その絶望をなだめるにように逆説的に選ばれたタイトルです。つまり、この怪物は、シュルレアリストらを含めて市民を苦しめる政治的モンスターとなります。
怪物がポップでコミカルであるだけに、人々の心理と大きく解離した超現実を作り出しています。当時の人々がどういう心情でこの作品を受け止めたのかが気になります。
まとめ
シュルレアリスムの出発点と、代表的な画家5人の特徴について見てまいりました。彼らの「純粋な状態の心理的な自律性」によって創造されたユニークな作品はいかがでしたでしょうか。
シュルレアリスムの作品は、その解釈がオープンなので友人や家族と鑑賞すると非常に楽しいです。
彼らが描いた超現実は、ひとりひとりの拡張部分を有効活用して生まれた唯一無二のクリエーションとして活き活きとしています。
アイディアに詰まった時には、「意識」と「無意識」の異質同体のパワーを感じてみると良い発想へと導かれるかもしれません。実際に夢やイマジネーションが偉大な創造につながった例は、アーティストだけでなく、科学者の実話でも山ほど存在しています。