エルミタージュ美術館所蔵のレオナルド・ダ・ヴィンチ『リッタの聖母』もNTF (非代替性トークン) アートになりました。昨年8月、他の名画4点と合わせて44万500ドル(約4850万円)で売られました。
ダヴィンチ研究所としては、この大ブームになっているNTFアートを考察してみることにしました。
- NTFアートの起爆剤
NTFアートに火をつけたのは、2021年3月クリスティーズのオンラインオークションにて、グラフィックデザイナーである Beeple ビープル(Mike Winkelmann マイク・ウィンケルマン) の『Everydays: the First 5000 Days』が、約6935万ドル(約75億円)で落札されたことに始まります。
『Everyday: The First 5000 Days』は、Beepleが2007年5月1日から、2021年2月21日まで制作した5000作品をコラージュしたものです。そして落札したのは、世界最大のNFTファンドを創設したブロックチェーン起業家・プログラマーであるビグネシュ・スンダレサン(別名:Metakovan)でした。
確かに、Beepleの作品は時代の息吹きを感じさせるイノベイティブな力作です。しかし、その高値はアート自体だけというよりは、ビグネシュ・スンダレサンが、まだあまり周知されていなかったNFTアートの価値に弾みをつける目的もあったはずです。
画商が、自ら取り扱う画家の作品をオークションで競り上げるのと似た手法です。
- デジタルグラフィックアートの潮流
そして、そのビグネシュ・スンダレサンの思惑はみごとに成功しました。
Beeple の作品は次々と数十億から数千万の高値で売買されています。
Beepleのキネティックビデオスカルプチャー(動くビデオ彫刻)『Human One』は、2021年11月に再びクリスティーズのオークションにて、2890万ドル(約31億8000万円)で落札されました。落札者は、スイスのベンチャーキャピタル「ダイアレクティックAG」の創業者ライアン・ズラーでした。
現在、NFTアートで最高額を売り上げているのが、Pak(本名は不明)です。その圧倒的な売り上げには理由があります。それは、限定版(リミッテッドエディション)と相対する (限定しない) オープンエディションで取引しているからです。
たとえば、2021年4月、サザビーズの初めてのNFTアートオークションに出品したのが『The Fungible Collection』でした。
その中の『The Cube』は、オープンエディションということで、ひとつ500〜1500ドルのキューブを好きなだけ購入することができました。最終的には23,598のキューブが売れ、他の「一点もの作品」と合わせて1680万ドル(約18億5000万円)を売り上げています。
その後、Pakは、2021年12月にオープンエディションの『Merge』で、生存するアーティストとして史上最高額9180万ドル(約101億円)を売り上げています。
下に作品を挙げたDmitri Cherniak ディミトリ・チャー二アクの作品は、アルゴリズムが生み出す無限のサイズやレイアウトやオリエンテーションなどで、抽象絵画のパイオニアであるピート・モンドリアン(1872-1944)を彷彿とさせます。
彼は、彼は収益にこだわらず、作品を空のウォレットに配布したりしています。しかし市場では、彼の作品『Ringers#109』は、約693万ドル(約7億6千万円)で所有者が移転しました。
こうしたNFTアーティストの先駆者たちの成功が、多くのNFTアーティストを生むきっかけにつながったことは疑いがありません。売上から見たトップアーティストランキングは、こちらをご覧ください。
- 歴史的記念碑にも高額がつく
歴史的に付加価値がつきそうなものも、高額で取引されています。
例えば、マット・ホールとジョン・アトキン(後にラルバラボ(Larba Labo)という会社を設立)が作った24 X 24ピクセルのキャラクターがあります。
彼らは、2017年NFT最初のCryptoPunk(クリプトパンク)というプロジェクトで、さまざまな属性を持った個性豊かな1万体のキャラクターを制作し、もともと無料で配布されていました。
これらのキャラクターがやがて、NFT愛好家にとっての貴重な限定品となり、遂には数億円の値がつくようになりました。最も高額だったのは、2021年6月にサザビーズで落札されたクリプトパンク#7523(マスクをした外国人)で、約1175万ドル(約13億円)でした。
これをアートと呼ぶのかどうかは、それぞれ解釈が異なることでしょう。私には、スーパーマンの初版本的な価値のように思えます。
確実にアート以外で、歴史的記念碑として高額取引されたのが、ツイッターCEOジャック・ドーシーの世界史上初のツイート”just setting up my twttr (ちょうど私のツイッターを設定してます)”です。
なんと、落札額は、290万ドル(約3億2千万円)で、落札者は、ブロックチェーン開発会社ブリッジオラクルCEOのシナ・エスタビでした。
- 伝統的なアート
その賛否はともかく、美術館が名画をNFTアートとして売るようになりました。その理由として、より広い幅の人々がアートにアクセスできるようにと謳っていますが、資金集めであることは否めません。
冒頭で触れたように、エルミタージュ美術館が、そのコレクション5作品(ダヴィンチの他、ファンゴッホ、ジョルジオーネ、カンディンスキー、モネ)をNFTアートとして約44万ドル(約4840万円)の収益を上げています。
また、大英博物館は、ブロックチェーンプラットフォーム LaCollection とパートナーとなり、2021年に最初のNFTアート第1弾として葛飾北斎の版画を販売しています。
最も高額なのは、2つのエディションしか売らないウルトラレアな『百物語お岩さん』で、14万8000ユーロ(約1924万円)となっています。ちなみに第2弾は、J.M.W.ターナーのドローイングです。
- 現状をまとめてみると
■NFTアートと言ってもその幅は広く、高額売買された作品だけ見ても異なる系統がある。
■伝統的なアートを管理してきた人々(研究者、キュレーター、ギャラリスト)ではなく、最先端のIT企業界隈のリーダーたちが、NFTアートコミュニティに参画、牽引している。大金が動くため、オークションハウスや美術館やメディアを巻き込み始めている。
■NFTアーティストは劇的に増加する一方で、そのバイヤー層はまだまだ限定的である。
- 近未来はどうなる?
■かねてから大問題だったNFTアートの取引にかかる莫大な電力消費と炭素排出量は、イーサリアム2.0(新しいブロックチェーンプラットファーム)で改善されそうである。
■アメリカ合衆国財務省はNFTアートがマネーロンダリングのターゲットになる恐れを報告している。
■世界有数の美術館の参入は、私たちのオリジナリティとコピーの価値観を崩壊させそうである。
■仮想空間に自分のミュージアムを作って楽しむ人は間違いなく増えるだろう。
というわけで、現時点でのNTFアートを見てきました。
その様相は、毎日めくるめく変わりそうですので、またアップデートします。